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第41話 『勧誘』

2025-03-06公開



〔王国歴378年 天陽神月ゼントゼウルラーザ14日〕



「今回のバラゴラ帝国の侵攻は、はっきりと言って無意味です。どう考えても利益を得られません。掛けた手間と費用に見合うモノも得られず、得られる名声も無く、バグズズ帝の治世ももう終わりだ、という風説が唯一得られるモノとなるでしょう」



 突然、今回の危機について語り出した俺の顔を、ロバート・クライフ騎士爵は険しい表情で見た。


 この国、エイディジェイクス王国の貴族のどれだけの割合が、この侵攻の理由や意味を正しく捉えているのだろう。


 いや、バラゴラ帝国の貴族さえも正しく捉えていないだろう。

 今は一時の熱狂に浮かれているだけで、終わった後には、敢えて目を背けた現実に打ちひしがれて、更に追い討ちを受けて、バグズズ帝に対する不満が危険水位になるまで膨らむはずだ。


 追い打ちを掛ける存在は意外な事に諸神教だ。

 


 諸神教は今年冒頭に、大きな発表を控えていた。

 これまで1000年以上も不変だった聖典に対して、精霊の存在を認めるという、とんでもなく大きな修正を公表する予定だったのだ。

 その為に水面下で動いていた。


 元々、人類が滅亡寸前まで追い詰められた『神罰(初期には『神災』と記述された事も有る)』のあらましと言うか裏話を、とある精霊にリークして貰ったのに、その事を聖典に載せなかった事が教会の原初の罪と言える。

 まあ、所詮は人間が造る組織だから諸神教も数多い過ちを犯したが、これはその中でも最大級の過ちだった。

 恩寵に精霊絡みのモノが無かったのも、1000年間無為無策になった理由だった。

 その影響でこの世のことわりに対する理解が不正確なままで固定してしまった。


 

 俺にエレムが憑りつくという珍事が成功した事で、天陽神ゼントゼウル様と主地神オウツゼウル様の2柱が改めて精霊に関する神託を発し、信仰や神力絡みの恩寵を持つ複数の者が受け取った事が大きな転機になったのだが、余りにも大きな転換点だったせいで調整に時間が掛かったみたいだ。


 やっと調整が終わり、満を持して1000年に1度の晴れの発表をする筈が、今回の侵攻に絡んだ騒動で延期になってしまった。

 そして、その発表に絡めて、魔脈の変動に備える様にという警告も出せず終いになってしまった。

  

 そりゃあ、諸神教の上層部は怒り狂っているさ。

 余りにもタイミングが悪過ぎた。

 水面下での動きは激しかっただろうが、現在バラゴラ帝国の舵取りをしている連中は、ことごとくその工作を無意味にしてしまったみたいだ。

 無能で、無知で、最悪以外の何物でも無い。


 まあ、俺はエレム絡みでその辺りを聞かされていたから、諸神教の動き以外を、こっそりとトーマス・グスタフソン騎士爵と従士の皆さんには漏らしたんだがな。

 


「ロバート・クライフ騎士爵様、ジョン・フランセン騎士爵様、もうお気付きでしょうが、この紛争の最中にお二人の命が狙われる可能性を否定出来ません。より一層の注意をお払い下さい。そして、死地に送られる様な命令を下される可能性は極めて高いと見ています。とん挫する危険性が高くて、袋叩きになる様な突撃命令は特に要注意です。例えば、敵本陣に突撃せよ、という様な命令が出た場合、一度こちら側に寄って下さい。自分と先進型鎧兵アドバンスド・スケルトンが先導します」


 クライフ騎士爵の表情は険しい。


「まるで全てを見通しているかの様だな」

「たまたま、遠くの声や聞こえる筈の無い声が聞こえる耳を持っているものですから」

「なるほど。その辺の侯爵家なんかの『耳』よりもよく聞こえるのだろう」


 まあ、これでロバート騎士爵とジョン・フランセン騎士爵の安全確保の役に立つだろう。

 生き残ってくれたら、グスタフソン騎士爵の太い後ろ盾になれる筈だ。

 侯爵家くらいの太い後ろ盾くらいにはな。


 それくらいの影響力行使をエレムにお願いしても罰は当たらないんじゃないかな?



「さて、トーマス・グスタフソン騎士爵、お願いをしなければならない事が有ります。今回の騒動を早急に鎮める為に独断専行をお認め下さいませんでしょうか?」

「どうする気だ?」

「相手の中枢を潰します」

「思ったより過激だな」

「『無為に過ごした時間は黄金でもあがなえない』、という言葉が有りますが、まさにそれです。無駄に時間を費やす余裕が有りません」

「許可しよう。好きにするが良い」

「ありがとうございます」


 俺とグスタフソン騎士爵のやり取りを聞いたロバート騎士爵は表情を消して、思わずという声でグスタフソン騎士爵に言葉を掛けた。



「トム、前途有望というよりも、覇王の才が現れている様に見えるんだが、気のせいか?」

「返す言葉が有りませんな」



お読み頂き、誠に有難うございます。

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