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第38話 『着陣』

2025-02-21公開




〔王国歴378年 天陽神月ゼントゼウルラーザ14日〕

 


 

「ふー、やっと着いたか。疲れが腰に来ている。もう年だな」

「弱気は禁物ですよ。まだまだ頑張らないといけませんよ、リーダー。アラン坊ちゃんが成人するまでは頑張って下さい」

「そうだな、最低でもあと10年は現役を続けないとな」



 うん、微妙に年寄り染みた会話をしているトーマス・グスタフソン騎士爵とヨハンさんを尻目に、俺は案内役の王国騎士団員から指定された場所で止まり、騎獣ハッグの上から草原を見渡した。


 草自体は枯れていて、只の平原になっているが、南側の至る所に天幕が張られている。

 各領地の名前が書かれた札が立てられていて、その根元には騎獣ハッグに飲ませる水を入れる木製の器と、手綱を固定する杭が打たれていた。


 グスタフソン村の4人に割り当てられている場所は草原の北側の端で、更に言えば西側の角地だった。

 周りは何の防備もされていない只の原っぱだ。


 隣の東側空き地には、来る途中で立ち寄った村の名前が書かれた立て札が立っている。

 俺たちが寄った時にはまだ出征の準備中で、あたふたしていたから期限とされた明日くらいにやっと着くんじゃないだろうか?


 立ち寄った村で唯一出発済みだったのがカールソン村だけというのが何とも言えないな。

 まあ、俺の元実家は元々武闘派で鳴らしていたから、叔父さんも今回の出陣で手柄を上げて、男爵位への陞爵しょうしゃくを何としてでも果たしたいのだろう。

 受けた仕打ちは理不尽な面も有るが、その割には余り嫌ってもいないから、陰ながら応援しておこう。


 南に目を向けると、大小さまざまな天幕が張られている。

 きっと爵位で天幕の大きさが変わる感じなんだろう。

 多分だが、南側に行くほど爵位が上がって場所も広くなって行くのだろう。


 どうでも良いが、爵位が上になる程、早目に連絡が入っているんだろうな。

 でなければ、大人数を派遣する準備に時間が掛かって遅刻するだろうからな。



 途中で別れたアルマとエッサは無事にルクナ村に着いただろうか?

 余程の事が無い限り大丈夫だと思うが、それでも心配は心配だ。

 それに、なんせ、あの2人の性格だ。

 ルクナ村に帰ってからちゃんと立ち回れるのかと考えると、正直不安しか無い。



 さて、周囲の把握も済んだので、そろそろ野営地の設営に掛かるとするか。

 ホッグ車の方向転換をしないといけないが、まだ南側に空地が有る今の内にホッグ車を停める位置決めをしよう。

 無難に割り当てられた区割りの真ん中に北向きで停めよう。

 どうせ、動かそうとした時に南向きには動かせんからな。



「グスタフソン騎士爵、ホッグ車を中央に停めて、天幕は東側、ホッグたちは西側に繋ぎます」

「おう、任せた」



 馭者ぎょしゃのナナゴウ以外、全員をホッグ車の荷台から降ろす。

 風上の南の方から若い? いや幼いという方が正解か? 何にしろ驚いた声が上がるのが聞こえたが、取り敢えず気付かなかった事にしよう。 


 大きく円を描く様にホッグ車を旋回させて、ピタっと狙い通りの位置に持って来るなんて、ナナゴウは才能が有るな。ま、どの先進型鎧兵アドバンスド・スケルトンでも同じ事は出来るんだがな。

 

 車輪止めを設置して、駐車は完了だ。

 先進型鎧兵アドバンスド・スケルトン5体には背嚢を外した状態で周囲の警戒をさせる。

 「てつぱいぷ」を槍の様に垂直に立てて、片手で支える姿は堂に入っている。

 うん、戦衣を作っておいて正解だったな。

 遠目から見たら、ほぼ人間に見えるだろう。


 エレムに頼んで、入切いりきりと放出量の加減が出来る様にした強者感は出さずにしておこう。

 これから各領から人が集まって、人口密集度が上がると絶対に悪目立ちするからな。

 それに俺たちの村のホッグとハッグは、旅の途中で馴れさせたから問題無いが、他の村のハッグが怯えてしまうのは確実だろうしな。


 2頭のホッグを手綱から解放して、まずは水を魔法で出して飲ませる。


 どうでも良いが、水を生成する水魔法には2種類有る事は意外と知られている。

 消える水と残る水を生成する水魔法だ。

 片や魔素を魔法で疑似的に変換した水と、片やH2Oという形で原子を整えた水だ。

 異世界の科学知識を知らずに、残存する水を大量に出すのは難しいらしく、そこそこベテランにならないと、生成した水の1/3から半分くらいしか残らないそうだ。

 立ち寄った村で初めてその事を知った時に、改めて自分が異常と思い知らされたのは旅の良い思い出だ。

 

 粗雑な造りの木製の器になみなみと水を出して上げると、ホッグは嬉しそうな鳴声を上げてから飲み始めた。

 よしよし、重いのにここまでご苦労様だったな、という労いの言葉を掛けて上げると、反応したのかまた鳴声を上げた。

 愛いヤツラめ。


 その頃にはここまで俺たちを乗せて来たハッグもやって来て、仲良く飲み始めた。

 仲が良いのは良い事だ。手間が減るからな。



 天幕の方は従士のウィッセルさんとヨハンさんがホッグ車から天幕一式を降ろして、手際良く設営を始めていた。

 

 





お読み頂き、誠に有難うございます。

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