第37話 『出陣』
2025-02-20公開
〔王国歴378年 天陽神月8日〕
「なかなか壮観だな」
思わずという感じでトーマス・グスタフソン騎士爵が呟いた。
冬の朝特有の澄み切った空気の中、開拓村の東門の外側には開拓村の全住人と、討伐士区画からもかなりの人数が集まっていた。
集まったみんなの目的は、出陣するグスタフソン騎士爵以下4人と、ルクナ村に帰るアルマとエッサの見送りだった。
アルマとエッサは、討伐士区画に住んでいる討伐士や店主たちとも交流を深めていて、実は結構人気が有る。
ただ、その友好具合いは女子力が齎すものでは無く、脳筋力という謎の力が齎すものというのが本当に惜しい。
もし、女子力で交流していれば、婿候補を連れて帰れていただけに残念の一言だ。
「ええ。騎士爵でこれだけの戦力を連れて行けるのは他には居ないでしょう」
グスタフソン騎士爵の呟きに応えたのは従士のマイヤーさんだった。
彼は騎士爵領の留守番役として領主代行を務めるのだが、はっきりと言って気が休まる事は無いだろう。
なんせ、開拓村の人口を超える討伐士が居るのだ。
治安の維持だけでも大変だ。
もっとも、普通の開拓村には無い強みが有った。
治安維持及び警備用として結構な数の先進型鎧兵を預けられるからだ。
最初に配置された4体に更に4体追加されて、ニジュウゴウからニジュウナナゴウまでの計8体の先進型鎧兵が投入される。
この8体はコミュニケーション能力と、捕縛術を重点的にカスタマイズされている。
脅威度としては4級の中位くらいだが、それでもほとんどの討伐士よりも強い。
更に言えば、開拓用として配備されているジュウゴウからジュウサンゴウまでの4体も、予備として控えている。
合計12体の先進型鎧兵は、はっきりと言って過剰戦力と言って良い。
そして、それらの村の運用の為に、ある意味戦闘力を落した12体と違って、純戦力として磨かれた先進型鎧兵9体が並んでいる。
初期の頃と違って、今では異世界の「めいさいふく」を参考にした戦衣を身に纏っている。
理由は衆目に晒す事になるので、魔獣と間違えられない様にする為と、心理的な衝撃度を和らげる為だ。
まあ、実際に戦闘を視られれば、どっちにしろ目立つとは思うのだが、念の為に小細工をしている。
武装と防具は、エレムが「再現」した特製のバスタードソードと円盾に変更されている。
出来が良かったので、俺やアルマとエッサの剣も取り換えたくらいだ。
こっち製の剣とは使われている素材というか冶金技術というか、格段に上だと思わされる出来だった。
それとは別に「てつぱいぷ」と言う鉄で造った細長い円筒状の武器と金具も大量に用意している。
俺の異世界の記憶では「やんきー」という若者たちが使っていた気がするが、エレムはこれを非殺傷武器として使う命令を先進型鎧兵に書き込んだらしい。
そんな手間を掛けた理由は、魔獣と違って、脅威度の低い人間相手なら骨の1本も折れば戦闘力が著しく落ちるから「てつぱいぷ」で十分な事が第1点目。
第2点目は、敵とは言え魔獣の大氾濫時に討伐出来る人間の数を揃える必要が有るから殺さない方が良い事。
第3点目は、「てつぱいぷ」と金具を組み合わせる事で簡単な獣防柵が短時間で組み立てる事が出来る事。
なんというか、エレムが絶好調だ。
そうそう、グスタフソン騎士爵とウィッセルさんとヨハンさんの分の剣も予備用として用意してある。
慣れる時間も取らずに下手に新しい剣に変えるよりも、長年使い慣れた剣の方が無難に使えるから、あくまでも予備だが、変えたとしても戦闘力は大きく落ちないだろう。
俺が連れて行く先進型鎧兵は、ヨンゴウ、ナナゴウ、サンジュウゴウ、サンジュウイチゴウ、サンジュウニゴウの5体。
アルマとエッサの2人がルクナ村に連れて行く先進型鎧兵は、ニゴウ、サンゴウ、ゴゴウ、ロクゴウの4体。
冗談抜きで、ここに居る先進型鎧兵の戦力だけで伯爵領くらいなら軽く制圧出来るかもしれんな。
ちなみに、リリーの護衛用としてゼロゴウとイチゴウの2体は残して行く。
この2体は特別製で、ダンジョンの第9層で手に入れた剣角魔熊の魂殻を防御魔法用に仕込んでいる。
竜種の討伐に投入するレベルの堅さを誇る逸品だ。
「でも、2頭立ての獣車が2台、手に入ったのは幸運でしたね。もし入手出来なければ間に合わないところでしたからね」
「全くだ。まあ、もう少し余裕が有れば良かったんだがな」
この村はエイディジェイクス王国では辺境中の辺境と言って良い。
なんせ、この村より西には魔獣の王国と言える大森林しか無いからな。
異世界で言う、フロンティアだったか?
何にしろ、集合場所から紛れもなく一番遠い村だ。
先進型鎧兵を命令された集合場所まで徒歩で連れて行く事は可能だが、どうしても時間が掛かってしまう。
「さて、そろそろ出発しようか?」
グスタフソン騎士爵の言葉を受けて、俺の右腕にしがみついていたリリーが俺から離れた。
自由になった右腕を伸ばして、リリーの頭を撫でてやるとじっと見詰めて来るので頷いてやる。
「大丈夫だ。俺がリリーとの約束を破った事は無いだろ? 必ず帰って来るからな」
「はい、待っています」
そのタイミングで、グスタフソン騎士爵が号令を掛けた。
「全員騎乗しろ! 出発する!」
俺を含めた4人が騎獣のハッグに騎乗する横で、9体の先進型鎧兵が見事に揃った動作で2台の獣車に乗り込んで行った。
エレムが魂殻の命令を改良しまくった先進型鎧兵らしい動きだった。
こうして、鮮烈なデビューを飾る事になるグスタフソン村の先進型鎧兵の出陣が行われた。
お読み頂き、誠に有難うございます。
 




