第35話 『秘密の開示 後編』
2025-02-16公開
〔王国歴378年 天陽神月5日〕
「大体1年後、西の大地が大いに震える事が最初の異変になります」
最近分かった事だが、エレムは自分が憑りついても死なない普人の幼児を探して放浪していたらしい。
目的は、人類の損害を減らす為。
何の損害か?
魔獣の大氾濫による損害だ。
殆どの精霊はそんな気にはならないらしいが、エレムはどうやら人類を気に入っているらしい。
観てると思いも付かない事をしたり、とんでもない失敗をしたりするのが良いらしい。
まあ、天陽神様の怒りを買った時代は滅べば良いと思っていたそうだが。
その後、生き残った人類の内の一部が滅亡寸前まで追い詰められた真相を別の精霊に知らされて、立ち上げたのが原始諸神教だったそうで、熱心に諸神様たちを崇め出してから興味が湧いたそうだ。
それからは千年以上も気ままに放浪しながら人類の事を観ていたそうだ。
だが、数十年前に、精霊故に分かる感覚で、魔脈が大きく変動する事に気付いた。
その影響で人類が滅びる可能性が高い事も同時に分かった。
気付いたは良いが、魔脈の変動を止める事は自然の摂理に反するので手を出す事はしない。
となると、可能な事は人類に手を貸す事だが、自身の力を使う事もしっくりと来ない。
可能だが、それをしてしまうと楽しくないと分かってしまったそうだ。
まあ、ルクナマクス様の様に土地神様として振舞う精霊も居て、土地神としてなら天啓を齎す事は出来るが、放浪する精霊のエレムが土地神になるには百年は掛かってしまう。
残るのは人類自身が強くなる事を手助けするか、被害に遭わない様に避難させるか、だ。
で、結局選んだ方法は人類を強くする事だったが、方法が分からない。
20年掛かって考え出した方法が、憑りついてみてはどうだろうか? だった。
どうしてそうなった? という気もしないでもない。
そして、憑りついても死なないかもしれない幼児として、選ばれたのが俺だ。
正直、よくもまあ生き延びたものだ。
でも、憑りついたは良いが、死にそうになるわ、強くなったと思ったら、また死にそうになるわ、とヒヤヒヤしたらしい。
何とか安定して、ホッとしたものの、それだけでは不足するというか、強くなる決定力に欠けるので、無理やり与えた恩寵が『異世界知識【微】』だった。
おかげでまた死にそうになったのだが、乗り切れたから良しとしよう。
俺が『異世界知識【微】』を乗り切った成果は、最初ははっきりとしなかったが、最近、一気に花開いた。
エレム自身が俺よりも深い部分まで異世界知識を活用出来る様になったそうだ。
どうりで、俺がろくに覚えていない物を『再現』する訳だ。
「更に1年後、2度目の大地の大いなる震えが北の大地を襲います。その大地の震えでは直接の影響は出ないのですが、魔脈が一番大きく動くのはこの時です」
異世界で言う大地震による震災だが、直接的な被害はそれ程でもない。
あくまでも、被害を齎すのは魔脈の大変動に刺激されて起こる魔獣化だ。
下手すれば、野獣の半分が魔獣化するかもしれないそうだ。
当然、家畜や騎獣も含めてだ。
「あらゆる野獣の内の半分が魔獣化するかもしれない、と言えば、どれだけの災害になるかお分かりになるでしょう」
俺の説明で想像したのだろう。
4人とも顔色が悪くなって来た。
「更に1年後、揺り戻しの大地の揺れがこの国を襲いますが、影響は少ない筈です。理由は魔脈の揺れ自体は小規模だからです」
喉がいがらっぽいので、残り少なっていたお茶を全て飲み込む。
「人類同士が争っている場合じゃない事を分かって貰えたでしょうか?」
お読み頂き、誠に有難うございます。
第34話 『秘密の開示 前編』は昨日公開済みです。
 




