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第34話 『秘密の開示 前編』

2025-02-15公開



〔王国歴378年 天陽神月ゼントゼウルラーザ5日〕



「『天敵としての魔獣』としての大氾濫なら、天陽神ゼントゼウル様が人類を滅ぼすという神意を固めたって事ですからね」



 俺が続けた言葉に最初に反応したのはトーマス・グスタフソン騎士爵だった。



「何故、そこまで断言出来るのかを訊いて良いか? 少なくとも、そんな話は噂話でも聞いた事が無いのだが?」



 グスタフソン騎士爵は諸神教の熱心な信者で、聖典を読み込むタイプだった。

 人類が天陽神ゼントゼウル様の怒りを買い、『魔獣』によって蹂躙されまくった時代の事を記した聖典の第二章に1度だけ出て来る鋼兵アイン・スケルトンを知っていたくらいだ。


 これまで秘密にして来たが、そろそろ開示しても良い頃合だろう。

 むしろ、秘密にしておいても、益は無い。



「これから話す事は、ここだけの秘密にして欲しいのですがよろしいですか? もし秘密を守って頂けるなら、これから迎える試練の時に対する心構えがより強固になりますが?」


 グスタフソン騎士爵が俺以外の従士から受ける視線を受け止めて、頷いた。


「秘密を守る事を誓おう」



 俺は4人の視線に嘘が混じっていないかを確かめた後で、説明を始めた。



「信心深い騎士爵にはすぐに受け入れられないかもしれませんが、この大地には土着の神様と言うべき存在が居ます」


 そこまで話した所で、グスタフソン騎士爵ががハッとした顔をした。


「ルクナ村を庇護する現世神スピリウスの、ルクナマクスと言ったかな、以前に聞いた事が有る」

「そうです、自分は精霊エレメンタルズと言っていますが、彼らは現世神スピリウスと呼んでいます。まあ、聖典に出て来ない存在なので統一された呼び方は無いのですが、同じ様な存在です」

「そう言えば、アルマとエッサの2人はその村の出身だったか。どっかで見た覚えが有ると思ったら、昔、討伐士として赴いた時に見掛けた子供たちだったのかもな」

「2人は討伐士が来たことは覚えていましたが、グスタフソン騎士爵とは気付いていませんね。結び付ける様な話はこれまで1度も出て来ませんでしたから」

「十数年も前の事だからな」


 2人とも、興味の無い事はすぐに忘れるからな。

 

「ちなみにルクナマクス様はルクナ村に憑いていますが、自分にも精霊エレメンタルズが個人的に憑いています。さて、ここで知られていない事実を明かしましょう。賜った恩寵は全て明らかになるのか? と言う事です。答えは隠れた恩寵も有る、です。何故、そう言えるのか? 自分が賜った恩寵は4つ有るのですが、『傀儡使くぐつつかい』だけしか表に出ていませんからね」


 4人とも険しい顔をして聞いている。

 まあ、そりゃあ、何言ってんだこいつ、ってなるよな。


「『傀儡使くぐつつかい』以外の3つの恩寵はかなり特殊ですが、その内の1つが『恩寵の儀』の時に正式に賜った『精霊憑き』です。それ以前から憑かれていたので、後追いで賜ったというのが正しいのですけどね」


 ちょっと喉が渇いたので、冷えてしまった茶で喉を潤した。


「言葉だけでは信じられないでしょうから、開示しても良い恩寵で証明しましょう。エレム、前にも出した手鏡を『再現』してくれ」


 ふわふわと漂っていたエレムが『喜んで~』という思念と共に、あっさりと4つの手鏡を『再現』した。

 ポスという、ソファに落ちる音がやけに大きく響いた。


 ほら、我が家には3人の女子が居るから、こういう小物でも上げれば喜ぶかな?と思って『再現』したんだ。

 もちろん、大喜びしてくれたよ。


 こちらでは銅の合金を磨いた銅鏡が有るが、貴族家で無いと買えない。

 なんせ、造られる数が少ないし、そのせいで値段も高い。

 旧家だったカールソン家でも、母親が大事にしていた掌よりも小さな鏡しか無かった。

 しかも微妙に歪んでいた事を覚えている。

 だから、曇りが無くて歪んでいないガラス製の鏡なんてこちらでは絶対に手に入らない。



 まさしく、4人はポカンとした顔としか表現のしようが無い顔をした。


 より正確に言えば、感情が抜け落ちた顔となるのかな?

 まあ、いきなりこんな奇蹟を見せられたら、そうなるか?

 人類には、無から何かを産み出す事は絶対に不可能だ。

 それこそ、諸神様たちだけが可能な御業みわざだ。

 それを言葉だけで成し遂げた俺は何者だ? ってなるよな。



「『精霊憑き』と『再現』という恩寵を使いましたが、ここで注目すべきは、この2つが正式に天陽神ゼントゼウル様から賜った恩寵と言う事です。そう、精霊は天陽神ゼントゼウル様から認められた存在という事です」



 一旦、俺の言葉を理解する為の時間を置くとするか。

 最初に再起動したのはグスタフソン騎士爵だった。


「前に貰ったガラスペンもこうやって造られたのか? 目の当たりにしても信じられん。まさに奇蹟だ」


 そこまで呟いたところで何かに気付いた様だ。


「『再現』? となれば、元になるモノが有ると言う事か?」


 鋭い。

 そう、異世界の物を再現しているんだが、そこに気付くのは並大抵ではないだろう。


「そこのところは未だ秘密と言う事でお願い致します。強調しておきたい事は、精霊は実在していて、天陽神ゼントゼウル様にも認められている存在だ、と言う事です」


 俺の言葉を何とか呑み込めたのだろう。

 4人とも、手鏡に手を伸ばして色々な角度からあらため始めた。

 異世界では安物と見做される簡素な鏡だが、こちらでは再現不可能な技術と材料で造られている事はすぐに理解出来るだろう。



「しかし、この世の秘密がこんな開拓村で開示されるなんてなぁ。本当に信じられない」


 マイヤーさんがしみじみと呟いた。



 申し訳ないが、まだ俺の話は続くんだ。





お読み頂き、誠に有難うございます。

 明日の同じ時間に第34話『秘密の開示 後編』を公開します。



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