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第31話 『従士』

2025-02-05公開



〔王国歴377年 遠地神月サステールラーザ35日〕



「今のところ、大きな問題が起きていないのは本当にありがたい事だ。君達がこの村に来てくれた事はまさしく僥倖としか言えんな」


 そう言って、トーマス・グスタフソン騎士爵は視線を俺の方に向けた。

 


「まあ、自分らもこの村でかなり自由にやらさせて貰っていますから、お互い様ですよ」

「そう言ってくれると助かる。それで今日来て貰った理由なのだが、出来れば従士になって欲しいんだ。もちろん、それによって追加の義務が加わる事は無い。どちらかと言えば、何か有った時に当家が後ろ盾になる為の口実だ」


 

 この村に来て、早くも5ヵ月が過ぎた。

 その間に色々な事が起きた。


 まず一番大きな出来事は、妖精のゴダンが創造したダンジョンが、この村の村人には3ヵ月前、他所よそから来た討伐士には1ヵ月前に公開された事だ。


 それに伴って、討伐士組合の出張所が、村の北側に拡張された新規造成地に2ヵ月前に創設された。


 新しい造成地を造るに当たっては新規に「再現」した専任の先進型鎧兵アドバンスド・スケルトン4体が投入されて、大きな成果を得ていた。 


 ただ、先進型鎧兵アドバンスド・スケルトンと言っても、ゼロゴウと違って戦力としてはそれ程でもない。

 脅威度で言えば5級の下位くらいだ。

 余裕を見て脅威度6級の大角魔鹿ゴレーザー・アルゼスに対処出来るくらいに戦闘力を落して、余らせた能力を伐採能力や土地の造成能力、更には木工の能力に割り振った結果だ。


 その4体は新規の造成地がある程度形になった段階で、村の南側の開墾に回された。


 今では新しい造成地は討伐士区画と呼ばれて、様々な業種が進出して来ている。

 予想を上回る発展を遂げて、定住人口は100人を超えた。行商やダンジョンから出た素材を扱う買取業者などの流動的な人口は10人前後と言う所だろう。


 元の開拓村が俺たちを入れて22戸61人と言う事を考えると、歪な人口構成比になるがなんとか大きなトラブルも無く安定している。


 その立役者とも言うべき存在が、討伐士区画の治安を維持する為に「再現」された先進型鎧兵アドバンスド・スケルトン4体だ。

 こっちはゼロゴウ譲りの戦闘型で、少々発音は怪しいが会話機能が追加されてコミュニケーション能力が高く設定されている。

 もう、エレムさんに頭が上がらなくなって来た気がする。


 それはそれとして、この4体はほとんどの討伐士よりも強い。 


 そして、この世代から初めて先進型鎧兵アドバンスド・スケルトンに衣装を採用した。

 理由は、公的な存在と言う事を明確にする為だ。

 相変わらず俺の記憶ではほとんど思い出せないが、「ぎじょうへい」という兵士の服装を参考にしている、らしい。

 何と言うか、異世界では「まごにもいしょう」と言うんだったか?

 制服?を着せるだけで、それっぽく見えるんだから、不思議な物だ。


 

 新しく発見されたダンジョンで一旗揚げようとやって来た討伐士が討伐士組合出張所で最初に教育される事は、『決して金属人形には逆らうな』だ。


 なんせ、領主のグスタフソン騎士爵が治安維持の為に導入した魔骸ゴレーザー・ゴス種で、しかも脅威度4級相当の強さを持っている、と聞かされれば、逆らう気も失せる。


 それでも初期の頃には血の気が多い連中が来ていたらしく、何回か騒動が有った。

 理由は金属人形を使役しているのが7級の「傀儡使くぐつつかい」という話を聞いた素行の悪い幾つかのパーティが挑発して来たからだが、ソイツ等からしたら予想外の結果になった。


 成人して2年未満の子供と言って良い7級の討伐士1人に、俺の事だが、手も足も出なかったからだ。

 その時の鎮圧劇を見た連中は、その年若い討伐士が何をしたのか分からない程、強かったと言うに及んでは、明文化されないルールが出来上がった。

 更には領主の怒りを買い、永久追放の処分も喰らえば、手を出しても損にしかならない。


 それと、元討伐士3級だった騎士爵様は討伐士の事を知り尽くしているから、飴と鞭の使い方が上手いので追放されるくらいなら、大人しくして居る方が賢いという空気が出来た。

 飴として、こんな新しい村には珍しく、きちんとした酒場と安全な娼館が用意されており、『さすが元3級討伐士様は分かってらっしゃる』という評判になっている。


 しかも女性討伐士の為に、或る一画が隔離される様に作られていた。

 そこでは風呂場が併設された美容と服飾に特化した店が用意されていて、若い女性の討伐士から圧倒的な支持を得ていた。

 女性専用の宿も用意されているので、まさに至れり尽くせりだった。



 開拓開始から2年しか経っていない開拓村としては、ほぼ理想的な発展を歩み始めていると言えた。




「そうですね、今の状態よりも身分的に安定するので、受けたいと思います」


 どちらにしても、今の状態は中途半端と言える。

 一応は討伐士組合を通した業務委託と言う体裁をとっているが、討伐士でありながら公的な仕事の治安維持のかなめの部分を担っている訳だからな。

 上手く回っているからと言って、グスタフソン騎士爵もさすがに見過ごす訳にはいかないのだろう。

 

 ただ、アルマとエッサの2人に関しては、あと少しで郷里に帰るので、そのままの身分と言う事になった。


 え、リリー?

 リリーも俺が公的な身分を得た事で、半分以上は平民とはいえ、一応令嬢に返り咲きになる。


 まあ、本人は気にしないだろうがな。






お読み頂き、誠に有難うございます。



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