第20話 『村に鋼兵がやって来た日』
2025-01-07公開
〔王国歴377年 従地神月9日〕
「おい、その金属人間はなんだ?!」
門番のアールトさんがダンジョンから帰って来た俺たちに向かって声を掛けたが、その声には驚愕の感情が多分に混じっていた。
うん、分かるよ。どう見ても異質なのが混じっているからな。
結局、エレムは自分が造った等身大のアルミ製人形が気に入って、ダンジョンからここまで憑依したままだった。
当然、自律で歩いて来たんだが、ここに来るまでだけでも色々な情報が分かった。
まず、重量は人間並みに抑えられている事
下生えが有る様な林の中でも、人間並みに歩ける事
部品がこすれる様な音もしないのでかなり静かな事
最初の内は下生えの抵抗を強引に突破していた事から力は強い事
最後の方は重さを感じさせない様な歩き方をしていたので学習した事
ただ、エレムがウキウキし過ぎて、呼び掛けても反応が薄いので分からない事も多い。
視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感が有るのか?
有ればどの程度の精度なのか?
最終的な強度はどの程度なのか?
活動にナニカが必要なのか?
活動に時間的制約は有るのか?
エレムがいつ飽きるのか?
「ダンジョンで出た骸兵の中の1体なんだが、もしかすれば諸神教の経典に出て来る伝説の鋼兵かもしれん。偶々俺の恩寵の『傀儡使い』でテイム出来たんだ」
「おお、そりゃあ凄い。お手柄だな。ふむふむ、確かにどう見ても剣装鎧兵や剣装骸兵では無い様だな」
「ああ。ほんと、幸運に恵まれたもんだ。それで、領主様に知らせて貰って構わんか? なんせ、魔物を簡単に村に入れる訳にもいかんだろ?」
「ふむ、そうだな。ペール、ひとっ走り頼む」
「は、はい」
ペール君の足音が遠ざかって行く。
そう言えば、彼の方が年上なんだが、心の中では精神年齢的に君呼びしてしまうんだよな。
まあ、俺は異世界人の一生を見せられたせいで変にませているらしいから仕方ない。
一方、諸神教の経典に出て来る伝説の鋼兵を知っているアールトさんは、元は討伐士だったが、グスタフソン騎士爵に誘われて開拓村立ち上げに参加した中堅討伐士上がりだ。
待っている間の時間潰しに話を振ってみよう。
「アールトさん、よく鋼兵を知っていたね?」
「いや、俺も受け売りだ。領主様が詳しいぞ」
「へー」
なるほどな。
一般にはほとんど知られていない鋼兵を知っているという事は、信心深くて経典を読み込んでいるか、何かの討伐の時に参考として調べたって事だろう。
俺が知っているのは、恩寵の『傀儡使い』絡みで調べた結果だ。
鋼兵の名は、人類が天陽神様の怒りを買い、『魔獣』によって蹂躙されまくった事を記した第二章に1度だけ出て来る。
都市の名前は確かソドロムだったか? その都市が滅びたという噂が流れた後に流れ着いたごく少数の避難民が「ソドロムを蹂躙した魔獣は『鋼の兵』だった」と言った、という伝聞が記述がされている。
ただ、異世界の知識を多少知っている俺的にはスケルトンの様な魔骸種ではなく、ゴーレムの方が近い気がする。
まあ、どっちにしろ鋼兵の記述がその1箇所だけで、どっちという断定は出来ないのだがな。
「しかし、俺の想像とは全然違う姿をしているんだな。剣装鎧兵がもっと鉄で覆われている姿を想像していたんだがな」
「ああ、その感想は分かりますね。鎧も無ければ兜も無いですからね。しかも顔なんか人間そっくりだもんな」
「そうそう。髪の毛が短いから男かと思ったら、よく見れば女性らしい姿だしな。段々顔も優しそうな感じに見えて来たな。金属で出来た人形という気がして来たぞ」
おお、正解だ。
表情が変わらないから、見れば見る程人形に見えて来るんだ。
その後も、アールトさんの討伐士仲間が剣装鎧兵と戦った際の昔話などをネタにむだ話をしていると、ペール君が戻って来た。
うん、気配は3人分だから、グスタフソン騎士爵と従士のヨハン氏も一緒に来たかな?
門が開いて、グスタフソン騎士爵とヨハン氏の2人が出て来た。
うん、やはりと言うかさすがにというか、警戒されている。
「ダンジョン第6層までの調査が終わった事と魔物をテイムして連れ帰ったので、その報告です」
「早いな。あと1日か2日は掛かると思っていた」
「まあ、特にこれと言った問題は有りませんでしたからね」
後ろの方から呆れた気配がした。
いや、本当に特に問題は無かった筈だ。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
第21話の投稿は今週中に出来ればと考えています。
今年も週に2話程度の頻度で(休みごとに書き上げて)投稿したい今日この頃(評価が芳しくなければ頻度が落ちますのでご理解とご協力を賜わります様に伏してお願い申し上げ候)。
 




