第18話 『想定外の変化』
2024-12-31公開
〔王国歴377年 従地神月9日〕
「さて、さっそく、エレムの欲しがっている鉱石を採取するか」
と俺が呟いた段階で待ったが掛かった。
「ちょっと待って! あー、何から突っ込んだら良いか分からないけど、エリクソン様、とにかく待って下さい」
アルマが取り乱して、俺の肩を掴んだ。
慌て過ぎたのか、ちょっと懐かしい呼び名を使われた。
出会ってしばらくしてから貴族の一員と知って皮肉で1回だけ呼ばれたが、それまで通りに呼んで欲しいと言った後は、それ以前の『エリ坊』に戻ったんだが、余程慌てたのだろう。
「ん? なんか突っ込むところ有った?」
「いや、突っ込み所が満載過ぎます。妖精様の件もそうですが、なんと言っても現世神様の件です。もう白状しちゃいますが、我々2人とも現世神様の気配を感じられるんですよ。生まれ育った村が現世神様の庇護を受けているので、その影響です」
「現世神様? もしかして精霊の事をそう呼んでいるの? 何かの文献で読んだけど、『諸神教』が広まる前に使われていて、今では使われていないと思っていたんだけど」
「そうです! 故郷の村には諸神教が布教に来ていないですから。とにかく、まずはちゃんと挨拶させて下さい」
「別に構わないけど」
そう答えたが、アルマとエッサは俺の返事を聞く前に、ダンジョン主のゴダンにした様に、片膝を付いて跪いていた。
「世界の理を司る現世神様、ルクナ村が生まれのアルマ・ルクニアムで御座います」
「同じくエッサ・ルクニアムで御座います」
ちゃんとエレムの方を向いて跪いているから、確かに感じられている事は確実だな。
それならそれで教えてくれても良かったんだがな。
エレムの応えはゴダンにしたのと同じ様に片手を上げる事だった。
いや、違った。
俺に言葉を掛けてやってくれという思念が来た。
「挨拶は受け取った。ルクナマクスは元気か? だって」
「我が村に庇護をお与え下さっている現世神様はご健勝で御座います」
なるほど、精霊の名前は軽々しく口に出来ないんだな。
それとエレムとルクナマクスとやらの精霊は顔見知りって事か。
「それは善き事。いずれ会いに行く事としよう、だって」
「有難き御言葉。なれば、魔脈が変動するまでに御来訪頂ければ我が村に庇護をお与え下さっている現世神様も喜びましょう」
「相分かった。エリクソン兄妹と共に行くとしよう」
「誠、有難き御言葉。尊き時間を頂きました事、心よりお礼申し上げます」
俺とリリーの意思とは別にところで、どうやらアルマとエッサの故郷に行く事が決まった様だ。
ちょっと面白かったのが、ゴダンが真面目な顔をして、このやり取りを見ていた事だ。
どうでも良いが、異世界での描写では、真面目な顔のゴブリンというのも珍しかった気がする。
「エリクソン様、御言葉の告達、有難う御座いました」
「前にも言ったけど、エリ坊で良いから」
「いえ、正式に現世神様に御挨拶をしたのですから、これまで通りにはお呼び出来ません。世俗の貴賤では無き故」
「なら、せめて他に人が居ない時だけにして欲しい。リリーもびっくりするからな」
「分かりました、その様に致しましょう」
ふう、変な所で疲れたな。
「という事で、今度こそエレムご希望の鉱石の採集だ」
「ああ、それなら精霊様の時間を無駄にする事も有るまい。出しておこう」
ゴダンの言葉と共に、ダンジョンの壁から鉱石が吐き出される様にゴロゴロと転がり落ちて来た。
その奇妙な現象はエレムが片手を上げるまで続いた。
転がり落ちた鉱石は最終的に浴槽2杯分相当の小山を作った。
エレムのお願いもあっという間に片付いたので、この後はお仕事の時間にしよう。
エレムもここで何かをする気の様だし。
「という事で、アルマ、エッサ、第6層までの調査をしようか?」
「御意」
これまでの受け答えを懐かしむ日が来るなんて想定外としか言えないな。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
第19話の投稿は鬼が笑ってしまう為に予定が立ちません。
出来れば来週中に公開したいなという事で・・・
無理だった時はご容赦下さいませm(_ _)m
来年も週に2話程度の頻度で(休みごとに書き上げて)投稿したい今日この頃(評価が芳しくなければ頻度が落ちますのでご理解とご協力を賜わります様に伏してお願い申し上げ候)。
 




