第15話 『Win-Win』
2024-12-20公開
〔王国歴377年 従地神月8日〕
昨日は思ったよりも討伐後の後始末に時間が掛かって、開拓村に帰って来たのは夕方だった為に、グスタフソン騎士爵に討伐完了の報告と回収した魔石の受け渡しだけをして帰宅した。
だから、討伐の詳しい話と報酬の確定の為に、午前中に領主館に行く予定だ。
その後は午後からの半日を休みに当てる積りだ。
さすがに、この開拓村に来てから働き過ぎだ。
そろそろ一旦、落ち着く日を作らないと気付かない内に疲れが溜まってしまう。
それに、リリーとの時間をもう少し取っておかないとな。
何と言っても、俺の我儘で親族と縁を切ったおかげで、俺たち兄妹2人だけで力を合わせて生きて行く必要が有るからな。
いつかは兄離れをするだろうけど、それは今じゃない。
うん、今はまだ早い。
しっかりしていると言っても、リリーはまだ8歳なんだ。
せめて独り立ち出来る年齢になるか、俺が認める様な相手を見付けるか、ちゃんとした仲間を見付けるかしてからの話だ。
そして、もしどこの誰とも知れない男が結婚をしたいと言って来たら、異世界で聞いたあのセリフを絶対に言ってやる。
『リリーが欲しければ俺を倒してからだ』
まあ、正面からぶつかって俺を倒せる普人なんて、そうそう居ないだろうが。
居るとすれば、普人ではなく、俺と同じ様に精霊との関りが深い誓人くらいだろう。
まあ、誓人が「聖なる森」から出て来るとは思えないし、全く自慢にはならないが純粋な戦闘力なら俺の方が上だ。
朝食にはまたもや何故かアルマとエッサが参加していたので、食休み後にそのまま4人で領主館に向かった。
昨日の内に訊いておいたが、リリーも今日は予定が無いと言っていたので、足りない生活用品を手に入れる事が出来るかを見て回るつもりだ。
馬車に乗って来たとはいえ、荷物はそれほど持って来れなかったから生活を始めて分かった不足品が出ているからだ。
意外と気付かないものだ。
例えば、討伐に使うからバスタードソードや解体用のナイフは3人とも持っているが、料理に使う包丁を用意していなかった。
いや、解体用のナイフでも構わないと言えば構わないが、料理に使うには少々取り回しに難が有る。
そういう訳で、午後からは開拓村を廻る予定だ。
「昨日も言ったが、改めて御苦労だった。気付かずにおればいつの間にか北の林まで狩場になっていただろう。討伐士上がりが多いとはいえ、無防備で遭遇すれば犠牲者が出ていたかもしれんし、北の林を閉鎖すればしたで今の季節に採れる食材が手に入らなかっただろうし、かなりの影響が出ていただろう」
「いえ、討伐は私たちの役割ですから、仕事をこなしただけです」
「そう言ってくれると助かる。それで、報酬だが、金貨7枚でどうだ。魔石1個につき銀貨1枚に加え、鏖殺猩猩の魔獣討伐の分を上乗せした金額だが、どうだろうか?」
「ええ、それで構いません」
討伐士組合に持って行けば、討伐依頼が出ている鏖殺魔猿の魔石は銀貨1枚が相場だし、鏖殺猩猩の魔獣でも金貨1枚だ。
集落には鏖殺魔猿が45匹居たから、単純に足すと金貨5枚と大銀貨1枚というところだ。
追加した金貨1枚と大銀貨1枚は早期に討伐した事への上乗せ報酬と言った所だ。
さすが元3級討伐士だ。
俺としては金貨6枚くらいと見ていたが、上回る金額を出して来た。
「それと、討伐とは違うが、発見したダンジョンの調査を依頼したいが構わないか? 3層までは調べたが、6層迄の調査を頼みたい。そこまで調べれば、ダンジョンの傾向が掴めるからな」
「もちろん構いません」
規模が大き過ぎて最下層が分からないダンジョンも在るが、ダンジョンの階層は5の倍数になっている事が殆どだ。
確か、5層までが半分、10層までが1/4、15層までが1/5、25層までが4パーセント、不明が1パーセントという構成比だった筈。
だから、新発見のダンジョンの規模を特定する場合、6層まで調べれば5層か10層かが分かる。
それに、5層までに出て来る魔獣を調べれば、下層に出て来る魔獣の傾向も分かるからな。
「こちらは調査費用として金貨2枚を用意してある。それと前に言っていた必要な資源の採集は許可しよう」
「ありがとうございます。勿論、それで結構です」
まあ、未踏ダンジョン6層迄の調査費としては妥当な線か。
ちなみに金貨2枚も有れば、村や町に住む一般的な子供3~4人が居る家庭なら一ヵ月は暮らせる。
街に住んでいるなら、節約をしないと無理といったところか?
物の値段が違い過ぎて換算は難しいが、異世界の日本なら20万から30万円といったところだろう。
そうそう、商会は手形を使うという話は聞いた事が有るが、異世界の様な紙幣などない。
現金と言えば硬貨だ。
金貨10万円、大銀貨5万円、銀貨1万円、大銅貨5千円、銅貨1千円、小銅貨1百円という感じだ。
あと、子供のこづかいによく使われる、小銅貨の半分の価値の屑小銅貨が有る事は有る。
それはさておき、ダンジョンの質によっては、開拓村に落ちる金はかなりのモノになるから、金貨2枚なんて、必要経費としては微々たるものだ。
まあ、このダンジョンはかなりの優良物件なのは確定済みだ。
なんせ、ダンジョンを造ったのがエレムから頼まれた妖精だからな。
余り知られていないが、ダンジョンを造るのは悪戯好きの一部の妖精だ。
彼らにとって、ダンジョンというのは人間(ほとんどが普人だが)という玩具で遊ぶ為の遊戯盤に過ぎない。
だから、ダンジョンで人間が死んでも気にしないし、長く続くダンジョンはより楽しむ為に進化する事が有る。
まあ、人間もダンジョンから多大な恩恵を得ているんだから、「Win-Win」ってヤツなんだろう。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
第16話の投稿予定は近日公開という事で・・・
次回から傀儡作成編に突入する予定です\(^o^)/
これからも週に2話程度の頻度で(休みごとに書き上げて)投稿する予定です(評価が芳しくなければ頻度が落ちますのでご理解とご協力を賜わります様に伏してお願い申し上げ候)。
 




