第11話 『鏖殺魔猿』
2024-12-11公開
〔王国歴377年 従地神月7日〕
開拓村の門を出た俺たちは北側の林の外縁部を掠める様に歩いて西側の森に向かった。
林には野獣の気配は有るが、魔獣の気配は無い。
今はいつもの精霊姿に戻っているエレムも特に反応していないし、察知した野獣も人を襲わない草食系ばかりなので特に狩る事も無くそのままパスする。
なんだかんだで、昨日までに狩った獲物が多いから2,3日は狩らなくても十分な備蓄が有るからな。
いよいよ西側の森に近付いたが、こちらは魔獣の気配がした。
ただ、野獣の気配が少ないので、鏖殺魔猿の群れが昨日の夜も狩りをした可能性が高い。
何と言うか、もっと資源は大事にしろよ、と言いたい気分だ。
縄張りの狩場の獲物を狩り尽くしてしまうと、当然だが元々居た魔獣も含めて狩場を求めて移動する羽目になる。
次に狙うのは北側の林になるだろう。
これから春の恵みが採れる季節になろうかという時期だから、採取をする為に林に入った村人と遭遇する危険性が高くなる。
やはり、今日の内に群れを殲滅する必要が有るな。
バスタードソードを抜剣して、西の森の中に入って行く。
北側の林と違って、下生えに人の手が入っていないので低木や雑草が生え放題で歩き難い。
だが、昨日歩いた時に多少の間引きをしたので、その通り道は比較的歩き易い。
そのまま半時間ほど森を進み、森の中に在る直径100㍍ほどの池に着いた。
この池は豊富な湧き水が元になっているせいか透明度が高く、高低差の関係で森の深部の西側に向けて流量豊富な川が流れて行っている。
グスタフソン騎士爵も、人手と時間が確保出来れば、森の中だが掘削作業をして開拓村まで水を引き込みたいと考えているそうだ。
まあ、正直なところ、人力だけなら数年単位ではなく十年とか数十年とかいうスケールの話になると思う。
3人とも体力にはまだ余裕は有るが、取り敢えず一旦小休憩を入れる。
この後に本日のお仕事が控えているからな。
倒木に腰かけて給水タイムだ。
「やはり、昨日の晩も狩りをしたようだな」
少し離れた岸辺を見てアルマが言った。
前回と少しずれた位置で獲物の解体を行った跡が残されていたからだ。
鏖殺猿が異世界の猿と違う点は、肉食動物という点だ。
異世界の猿は雑食で、植物や虫などを主に食べるのに対して、鏖殺猿は、獰猛な肉食動物であり、運悪く討伐士以外の人間が遭遇すると獲物にされる。
どれ程の脅威かというと、単独なら9級相当だが、群れると8級相当の猪系の魔獣や剣角鹿を連携を取って簡単に狩ってしまうほどだ。
7級相当の剣角鹿の魔獣も単独で居ると、襲われるくらいだ。
そりゃあ、武装していない10級相当の一般の人間が勝てる訳が無い。
そして、他の魔獣と同じ様に、魔脈の影響が濃い場所で常に魔力に晒されていると群れが鏖殺魔猿に魔獣化してしまう。
体格、知能が大幅に上がり、魔力を身体強化に使う事まで覚える。
鏖殺猿の特異点としては、子供も含めて群れ全てが魔獣化する点だ。
しかも、鏖殺猩猩の魔獣に進化する個体が群れに生まれてリーダーに収まると、ちょっとした開拓村なんかを滅ぼす事も出来てしまう。
鏖殺猿という名前の由来だ。
俺が出した水を飲み終わったタイミングで、3人とも立ち上がった。
「さあて、やろうか」
エッサが、それはそれは良い笑顔で言った。
なんだろう、人間は雑食性の筈だが、肉食動物だったっけ? と言いたくなる笑顔だった。
鏖殺魔猿の群れは、俺が仕掛けていた10個の魔法的な罠の内、4つに引っ掛かっていた。
罠と言っても、狩る為の罠では無く、どこに向かったかが分かる罠だ。
アルマとエッサの2人は罠の痕跡を追跡出来ない為に俺が先頭を歩く事になる。
2人に遊撃と後衛を任せて、慎重に追跡を開始したが、川を下って行った様だ。
元々、川辺を縄張りにしていた鏖殺猿の群れが魔獣化し、更に開拓村が近くに出来た事で、鏖殺猩猩の魔獣まで誕生した気がする。
まさに『天陽神様が人類に与えし試練』が今も続いている証拠なんだろう。
お読み頂き、誠に有難う御座います。
第12話の投稿予定は未定です。
まだ1文字も書いていませんから(;^ω^)
話の流れ的にはやっと討伐に着手するんじゃなかな?
と思う今日この頃(^^;)
これからも週に2話程度の頻度で(休みごとに書き上げて)投稿する予定です(評価が芳しくなければ頻度が落ちますのでご理解とご協力を賜わります様に伏してお願い申し上げ候)。
 




