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第106話 『仲良きことは』

2025-11-05公開



〔王国歴378年 従地神月ムウンゼウルラーザ 27日〕




「確認なんだが、バラゴラ帝国は商家や工房からどれくらいの税を取っていたんだ? 商い額に対してなのか、それとも店の大きさや人数に対してなのか、全く情報が無いのが現状だ」



 俺の質問に、立って臨席していた後方民間組の何人かが反応した。

 まあ、商いをしている者にとっては税の話題は一番の関心事だろうからな。

 答えたのはティケイシの街全体の商業組合の長をしているマケドニオ・ネスだ。

 商業組合長と言われて思い浮かべる人物像を裏切らず、ちょっとお腹の出た脂分多目の初老の人物だ。


「最初は商い額の1/5で御座いましたが、途中からは商家に居る人数や店の広さを加味したと言われて増額された帝国の指定額を納めて来ました」

「それはきついな」


 エイディジェイクス王国の場合、と言うか、実家が在ったカールソン領の様な安定した領では売上額に占める粗利の割合は1/3くらいで、「商家税」として収めるのはその粗利の2/5だ。

 もしくは売上額の2/15のどちらか高い方が「商家税」となる。

 だから商家には5/15ー2/15=3/15=1/5の儲けが残る計算だ。

 それが、5/15ー3/15=2/15となると、儲けはカールソン領の2/3になる。

 それでもしんどいのに、更に追加で恣意的に税額を上げられたら、儲けが飛ぶか販売価格を上げるかになる。

 そんな状況で帝国本土の商会が進出して来れば、まともな競争は出来なかっただろう。


「王国の平均的な領では儲けの金額の2/5か商い額の2/15かの高い方が「商家税」となる。これは工房も含む。ここでも同じにしようと思う」


 俺の言葉にホッとした空気が流れた。

 異世界の『にほん』ではどうだったかは知らないが、もっと複雑だった様な気がする。

 まあ、しょせんは素人が耳にする情報などたかが知れているから詳しくなくても仕方がない。


 ただ、ここで念押しをして置かなければ、俺の統治に影響が出る。

 

「さて、これは命令では無いのでお願いになるのだが、しばらくは商う品の価格を安めにして欲しいのだ。もちろん損を出さない範囲でだが。代わりに税の算出は低い値の方を適応しよう」

「ご配慮有難うございます。それで、そのお願いの意図はどういうものなのでしょうか?」

「先程出た年貢やダンジャグ芋とダイズと同じだ。帝国の占領が終わったという明確な印象を領民が抱ける点が第一。それと財布の口が開き易くなる事でこの国の商いの規模が拡大する事が第二。そうするとお金と商品が市場で動く様になる。働き口も増えて更に商いの規模が拡大する好循環が起こる訳だ。これが第三の理由だ。もちろん、エリクソン家も協力するぞ。王国側から仕入れた穀物ブレルは仕入れた価格から少し値引いて卸す予定だ。今の市場価格よりはかなり安い筈だ。手持ちと合わせて安くして商ってくれ」


 

 俺の言葉が浸透するにつれて、旧チベタニア民主国側出席者全員の表情が驚愕に変わった。

 

 それはそうか。

 占領と統治という名分の違いは有るが、旧チベタニア民主国側からすれば、帝国の占領の延長みたいな感覚が拭えなかったはずだ。

 だから、王国側からの商会進出も覚悟していただろう。

 ましてや、戦鬼バッド・ダ・ニキ男爵などという二つ名が付いた若造がやって来るんだから、手っ取り早く帝国の手法を継続して搾取するんだろうという予想もしていた筈だ。

 それが、明確に違うという事が分かったのだ。


「ご無礼を承知でお伺いしますが、今の話は閣下自らの発案なのでしょうか? 余りにも斬新な考え方に思えてなりません」


 ああ、そうなのかもしれんな。

 いせかいの『にほん』では経済が遥かに進歩していたし、知識も桁違いに多く手に入った。

 経済の素人でさえ、積極財政とか緊縮財政とか景気刺激策とか耳にしたくらいだからな。

 うん、ズルをしている気分で自慢は出来んな。


「素人考えだから、却って新しく思えるだけだろう」

「それでも、感服の一言です」


 ここで、何かを考えていた旧財務庁職員のラナン・カルセドルが「あっ」と声を上げた。 

 

「もしかして先程指示を出されたイエン通貨を明日から流通させると言う話がここで繋がる訳ですね」

「使う当てもなく死蔵する事になった元自国の通貨が再度使える事も帝国の占領が終わったという気持ちにさせる筈だ。しかも商品の値段も下がっている。使いたくならんか? 元手も無しに商いを活発化させるのは良い手だろ?」


 ラナン・カルセドルが「ありがとうございます」と言った後で「正に感服の一言です」と呟いた。

 話題が終わった事を知らせる為に視線を一巡させて、最後の『ばくだん』を投下した。


「それとこちらも重要な知らせだが、近々ダンジョンが誕生する予定だ。場所はこの街の西の方に在る山の麓だ。予想される階層は初期は5階層迄。ある程度成長すれば10階層になる筈だが、どれだけの時間が必要かは何とも言えない」



 今度こそ旧チベタニア民主国側出席者全員が絶句した。

 いや、こちら側の出席者も同じ表情で固まっていた。


 仲良きことは善きことかな、と言う言葉が頭を過った。






お読み頂き、誠に有難う御座います。

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