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第101話 『聞くんじゃなかった』

2025-10-23公開



〔王国歴378年 従地神月ムウンゼウルラーザ 27日〕




「さて、自己紹介も終わった事だし、これからの事を話し合う事にしよう」



 俺の言葉で旧チベタニア民主国側出席者の空気が一気に緊迫した。


 彼らは、ある意味生殺与奪権を俺に握られている訳だしな。

 そして、生殺与奪権を握られる苦しみはバラゴラ帝国に支配されて来た10年間で骨身に染みている。

 身構えるな、という方が無理だ。



「俺の短期的な方針は只1つだ。来年に起こる魔震災と、それに伴う魔獣ゴレーザー・ディエランの大氾濫を乗り切る事、これに尽きる。それ以外の事柄の優先度は低くせざるを得ん」


 俺の第一声が意外だったのだろう。虚を突かれた表情が多い。


 支配者が代わっただけで、姿を変えた新たな圧政の話が始まると覚悟していたら、全く違う破滅的な話が始まったからな。


 そして、俺の言葉がきちんと理解出来ると一気に顔色を無くして行った。



「ああ、もしかして魔獣ゴレーザー・ディエランの大氾濫の話は知らなかったのか? もしかして神殿から何も聞かされていないのか?」


 テイホフ筆頭従士からは、ティケイシの街には小さいながらも神殿が1つ在ると聞いていたし、現にこの後にそこの神殿長との面会の予定が入っているのだが?


「ええ、神殿からは何も聞かされておりません。帝国側は聞いているかもしれませんが」


 アルジャン・コラル旧代民議会副議長が代表して答えた。


 なるほど。

 考えられる答えは、バラゴラ帝国が握り潰していたという事だろう。

 引き上げる際に根こそぎ資産を持ち出したらしいが、もしも大氾濫の事を旧チベタニア民主国側に事前に知られてしまったら、暴動になって持ち出すところではなくなると考えたのだろう。


 神殿も帝国が居なくなったからと言って、新しい統治者が来る前に大氾濫の話を広めたら住人がパニックになる可能性を考慮に入れて敢えて広めなかったというのが正解だろう。


 まあ、誰もが貧乏くじは引きたくないからな。



「分かった。どっちにしろ、ここ以外では広まっている話だ。今日にでも神殿が公表するかもしれんな」


 全員が納得はしていないが理解はした、という表情で頷いた。


「話を戻すが、今年の準陽神月ジュヴィルラーザに西の大地で、来年の回遊神月ジョークルラーザに、チベタニア盆地、ジョージカ領、アラルカ領を含む北の大地を襲う大魔震災が切っ掛けで最大の氾濫が起こると予想されている」


 声にならない悲鳴が幾つか上がった。

 立っている民間の代表者のほとんどが拳を握りしめている。

 


「閣下、魔獣ゴレーザー・ディエランの大氾濫はどれほどの規模と聞いても良いでしょうか?」


 手を挙げて確認して来たのは冒険者ギルドの代表だ。

 元冒険者で現場上がりなのだろう。

 今も鍛えているのか、十分に戦える身体を維持している。


「少なくとも、ここに関してはチベタニア盆地を囲っている森林と山地に住んでいる中型以上の野獣ノナ・ディエランのほとんどが魔獣化ゴレーズンすると考えている。最悪の場合、マウゼやラパドの様な小型の野獣ノナ・ディエラン魔獣化ゴレーズンするかもしれん」


 冒険者ギルドの代表が『うわ、聞くんじゃなかった』と呟いた。


 いや、まだ気付いていないだろうが、騎獣のハッグは勿論、ホッグやウッグ鳥といった人に飼われている草食の益獣も魔獣化ゴレーズンする事も考えておく必要が有るぞ。


「手をこまねいていては、この盆地は魔獣ゴレーザー・ディエランで溢れるだろうな。その次に起こるのは山を越えてジョージカ領に雪崩れ込む事だ。そこでも起こっている大氾濫と合流した後、どこまで進むのか? 停まる事は有るのか?はまさしく天陽神ゼントゼウル様のみが知る、ってところだ」


 頭の中で地獄絵図が想像出来たのだろう。

 旧チベタニア民主国側出席者全員が憔悴した表情になってしまった。 



「だから、陛下は俺をここに派遣したんだ」


 ゆっくりと全員の顔を見渡して、自信を滲ませて断言した。


「俺以外では大氾濫を食い止める事は不可能だからな」





お読み頂き、誠に有難う御座います。

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