表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/15

guilty

店内に入るとジャズが流れており、薄暗い照明と相まって雰囲気を醸し出していた。

「いらっしゃいませ」

と低い声色で迎えてくれたのは髭面だが清潔感がある40歳ほどの男性で、この場所以外で会って職業を予想しても3回以内に当てられるな、と思った。男性のバックには3段にわたってお酒が並んでいる。置かれ方は無造作に見えて、きっと初めからそこにあって、そこにないと違和感を覚えてしまうのだろうなと、ふと思う。ここは自分が内定式後でスーツを着ていること、会ったらお酒を飲みたいことを伝えると相手が提案してくれたバーだ。{authenticな}という表現がとてもよく似合う正統派で格式の高いバーだと思う。

「今はリフレッシュしたい気分なんです、おすすめはありますか?」

「ええ、ございますよ」

男性が柑橘系の果実を取り出した。かと思えば銀の容器に氷を入れ、シャカシャカと心地よい音を刻みながら腕を振る。カタカナが多くて名前を覚えられなかったが、果肉をたっぷり含み美味しそうなカクテルが出てきた。乾杯してからようやく彼女の本名を知る。一口飲んでみると、甘い中に鼻を抜ける爽快感があり、大変美味だ。その感動と引き換えに俺は彼女の名前を忘れてしまう。マッチングアプリでの出会いなんてそんなものだろう。就活がうまくいかず、真理と距離を置くようになった。ずっと二人でいたから、いざ会わなくなると心にぽっかり穴が開いたような気分になる。その穴を埋めるようにマッチングアプリに手を出した。つくづく俺はどうしようもない人間だな、と思う。二時間後店を出て、かなり酔いが回っていることを自覚する。時刻は22時半を回っており、もう一軒飲みに行くと終電に間に合わなくなる可能性が高い。

そこからはあまり覚えていない。次の記憶はホテルの一室で、求めてくる女性の隣で天井を見上げながら涙を流している記憶だ。真理は自分にはもったいないほどの彼女だと思う。就職活動に失敗した腹いせに今、そんな真理を裏切って浮気をしている。落ちるところまで落ちたなと自分に呆れ返り、あまりに自分に失望すると涙が出ることを知る。ふと海岸が思い浮かぶ。…初めて出会った場所。告白を考えた場所。

帰ろう、真理のもとへ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ