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学祭

「昴くん!きたよ」

集合場所に正門を指定してもう10分ほど待っていた俺は、その声に吸い寄せられるように後ろを振り返った。真理はまだ半袖が多いこの時期に長袖を着ていて、手の甲はもうすっかり袖で隠れているのにその服装に似合わない褐色の肌で笑っていてなんだかおかしかった。それから特に屋台に立ち入ることも、軽音サークルの学祭ライブをのぞくこともなく20分くらい歩いた。

「ねぇ、なんか食べない?」

その真理の提案で俺はおなかがすいているということ、そして知らぬ間に真理がタメで話しているということに気が付いて、少しびっくりして言葉に詰まる。

「たこ焼き食べよう」

ようやく絞り出したその一言をきっかけに俺たちは屋台めぐりをはじめて、それから1時間もたたないうちに2000円を使い、たまたま小銭が多かったのもあってか財布はすっかり軽くなった。

最後は成り行きで軽音サークルのライブを見て、真理も俺も知らない多分マイナーな感じの曲をきいて特に感想もないまま正門に向かって歩いていたら「かっこいい人、別にいなかったね」と真理がつぶやいた。

「俺がいるじゃん」

柄にもないことを言ったと赤面して真理の顔を見ることはできなかったけれど、その時から真理は俺を意識しだしたらしい。しかし今日の俺は全然話せなくて、そのくせ最後に恰好をつけたものだからもう3回目は会ってくれないと思っていた。

正門についた俺たちは少し話をして別れ、帰路でさっきのライブの光景を思い出す。あの時はマイナーな曲だろうな、くらいの感想しかでてこなかった。けれど今思うと彼らはきらきらしていて、そのまぶしさに影を落とす自分の姿がみすぼらしかった。軽音サークルは留年率が高いとか男女のいざこざが絶えないとか噂が色々あって前々から辟易していたから自分が選択し得なかった道だったはずだ。俺は留年はしていないし、今のところ問題も起こしていない。特に波風を立てない大学生活を送り、3年生になった今、人生において大きな意味をもつであろう就職活動を頑張っている。将来を見据えて今を勤勉に生きる綺麗な大学生なはずだった。でもなぜだろう、そんな自分がひどくむなしく思えて、言い知れぬ寂しさを覚えて、今すぐ、もう一度、あの日の夕暮れに戻って真理と話したいのは。

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