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旅行

初めての家族旅行に行けたのはそれからかなり経ってからのことだった。

連日のように真理に取材がおしかけ、時に特番が組まれ、また研究を休むわけにはいかずスカジュール帳にはもはやグロテスクという表現が似つかわしいほどたくさんの予定が入っていた。一方の昴も直理の研究関連の部署に配属になり、案件がひっきりなしに舞い込んでくるから仕事をしていたら朝になっていた、という日も珍しくはなかった。ちっとも落ち着く気配のない中だったが奇跡的に二日間の休みが破り、家族旅行を提楽したのが木曜日だった。そして土曜日の今日、3人のいる旅館からは雪が積もっていく様子を見ることができた。

「今日が初雪ではないんだろうけど、雪が降ってるかどうかなんて気にならないくらい忙しかった。」

真理が嘆く。職位はボストクだがほとんどの研究の裁量があり、メディアに出演し続けていた。そんな調子だったから散財のタイミングもなくお金はたまり続けていた。連休をとるのが難しいため海外旅行は断念したが、その代わり国内では指折りの高級旅館に泊まることにしたのだった。せっかくの旅行なので2人でゆっくり過ごしたいという思いもあったが、共働きで子どもを実家に頂けたまましばらく面倒を見れていなかったので、子どもとの時間を大切にしなきゃね、と考えがまとまり3人で家族旅行をすることになったのだ。客室露天風呂から水平線に沈む夕日を見ることができた。昏い空に舞う雪がお湯に触れて解けていく。「ビジネス」から距離を読き、自然を感じるこの時間にはとても心が洗われる気がした。

3歳を迎えたばかりの星也は、この年齢には珍しくお風呂が好きだった。何度かお湯につかり、「高い高い」して海を見せるたび上下に体をはねさせて喜んでいた。風呂から出ですぐカニ鍋が運ばれてきて、カニを食べたのなんて記憶がないくらい昔のことだったからどう食べるんだっけと難儀し、真理と星也はそんな様子を手を叩いて笑ってみていた。一人暮らしだったし、またある時は精神を病んで引きこもっていたからカニなんて食べるわけがなかった。新しい家族と手にした休日にカニを食べるお幸せ。それを噛みしめると余計においしく感した。

食事を終えると、仲居に「お客様がお見えになりました」と言われて部屋を出る。家族水入らずの休日を邪魔しないでほしいと思うけれど、真理は有名人になのだから仕方ない。出口まで真理を見送り、ロビーでコーヒーを飲みながらくつろぐ。15分くらいすると真理が帰ってきた。

何を話してたのか聞こうとして真理の目を見る。それはまるで何かに怯えているかのような眼だった。質門をためらい開きかけた口を閉じると、真理の方から口を開いた。

「私、悪者になってるらしい」。

聞けば、エネルギーチップの技術盗用され、一部の国で軍事利用され始めているという。人の暮らしを、心を豊かにするはずだった技術が今、人を殺している。その事実は真理の心を折るには十分すぎるほどだった。

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