脚光
1月の頭に、元気な男の子が誕生した。体重3106g、大きな泣き声を上げて手足は天を仰いでいる。病室の窓から綺麗な星空が見える、そんな夜に生まれたいのちだった。窓に反射した赤子を見て、ふと思う。この子の名前は星也にしよう。
星也と名付けられた彼は、両親の愛情をめいっぱい受けてすくすくと育った。間もなく1歳と3か月を迎えようとしていた頃、昴は修士課程を終え、大手の化学メーカーに研究者として勤めることになった。一方の真理は博士課程を修了し、ポスドクとして研究室に残ることになった。聞けば論文がその道の権威の目に留まり、彼の経営する会社をあげて真理の研究チームが開発した試料を大量生産・工業化する取り組みが始まっているという。真理はその「エネルギーチップ」開発チームのトップとして、すっかり著名な研究者となっていた。
資源をめぐった無益な争いが起こらない世界。それがもうすぐ、そこにあるかもしれないのだ。子育てと研究の両輪を駆動させながら、瞬く間に20代が過ぎた。
昴が30歳を迎えた年の秋、エネルギーチップを国内最大手のインフラ企業が採用したというニュースが世間を賑わせた。遂に真理の研究チームが一般の人からも日の目を浴びることになったのである。