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年末

真理の書いた論文が学術誌「nature」に掲載されたらしい。もっとも俺にはそれがどれくらいの偉業か分からなかったが、知恵袋には「理系の研究者にとってエベレストのようなもの」と書いてあった。どうやら真理は研究者として雲の上のような存在らしい。「エベレストより登頂が難しい山」と検索すると「K2」と出てきたので、「君がエベレストなら俺はK2になる」と宣言しておいた。真理はクスっと笑い、「一緒に頑張ろうね」と言った。なんだか自分が恥ずかしく思えて「風呂入ってくる」と口にしてその場から逃げた。大学院に入って半年と2か月が経ち、最初は研究室のメンバーに比べて年上だったこともあり気を使われていたが、最近では同学年らしくタメ語で話しかけてくれるのが少し嬉しい。そんなことを考えながらシャワーを浴び終えて部屋に戻ると、毎年のように更新される「けん玉世界記録達成」のアナウンスが聞こえてきた。

今日は大晦日。この時真理は26歳で俺は27歳。真理と迎える初めての年越しまであと3時間だ。今年は年の瀬に大物芸能人の結婚ラッシュがあり、紅白からニュースに切り替わるとその話題一色だった。

画面から目を離さないまま、「結婚かぁ」と真理がつぶやく。「そうだなぁ」とよくわからない返事をすると、真理もこれ以上は何も言えず、沈黙が流れる。いつも一緒にいると会話が途切れるタイミングはあるし、沈黙すらも心地よい関係になる。しかし今日は気まずく、いつもよりテレビの音が大きく感じる。

「テレビ、うるさいね」

「消そうか」

「うん」

途端に無音が部屋を支配する。音もなくなんだか息苦しいこの場所は、宇宙空間を彷彿とさせた。しばしの沈黙が流れた後、耐えかねた真理がリモコンに手を伸ばそうとする。

「待って」

心の中で静かに、覚悟が固まろうとしている。

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