変わる未来
それからというもの、俺は時に寝食を忘れて勉強した。目標が見つかったことで今生きている日常を幸せに思えるようになった。消去法的に、数字に追われ話すことを生業とする営業職で再就職するのはやめておこうと思ったのもあった。研究職でももちろん会議などの場で人と話すことはあるが、それでも人と関わる機会は他の職種に比べて多くはない。志望校は比較的難しい国立大学をまとめた大学群に名前があるらしい近所の大学に設定し、大学院入試を受けるにあたって必要な参考書は真理に選んでもらった。私大で学んだ学部時代のレジュメを掘り起こすも、辛うじて単位をとれる程度にしか勉強していなかったので、何を学ぶにも新鮮な気持ちで勉強を開始することができた。そうして約10カ月の期間を勉強に注ぎ込んだ俺は見事に志望校のエネルギー工学専攻科の合格を勝ち取ったのだった。
「おめでとう昴」
「真理、ありがとう」
一度は受け止めきれなかった言葉に、今度は心からの感謝を伝えることが出来た。そうして真理がドクターの二年生になる頃、俺は大学院に入学したのだった。実は専攻科は真理の大学と共同研究しているということに加えて、受験科目の有利なところで選んだので、実際何の研究をしているのかよく知らなかった。真理に聞くと内容を知らずに受験していたことに驚きを隠しきれない表情を浮かべていたが、低品位な熱源を回生する研究や、電場を与えることでエネルギーを増幅させるアンプのような役割を担うコンデンサーの研究をしているのだと教えてくれた。俺にはよくわからなかったが、従来捨てられていたエネルギーを再利用できる社会を作り、資源をめぐる無益な争いを世の中から消したいと願う真理の強い思いはやけに共感できた。
「大学院に進学する」
俺は初めて、自分の選択した道に自信を持つことができていた。資源を循環させ、世界中でエネルギーが潤沢になり戦争の無い100年後を築く。そんな壮大な未来の物語を、真理と描いていけるから。
そして俺は知らなかった。もうそのエンディングに向かう筋書きが出来ているという事。そして真理こそが最前線で物語を書き進めている人物だというという事を。