表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

君に出会わなければ

「今日は、ありがとうございました」

もう一生会うこともないだろう受付の美人を目に焼き付けてオフィスを出る。窓から見える景色もついこの間まで桜色だったのが緑に色づき始めた。4年生の夏が来るというのに、内定はなく2次面接に進んだ企業は今受けてきた一つだけだ。それも1週間後に間違いなくお祈りされそうな予感がしていた。

「受付の人、きれいだったな」

そう言いかけて罪悪感で言葉を噤む。森下真理―半年前につきあって同棲している彼女の存在が頭にちらついたからだ。

10か月前、夏の熱気から逃げるように自転車を漕ぎたどり着いた海岸。そこに一人佇んでいた彼女の後姿は今でも鮮明に思い出すことができる。夏も終わりにさしかかった夕暮れ時、どこからか聞こえるヒグラシのなく声が哀愁を感じさせ、言い知れぬ寂しさを覚えて彼女に話しかけたのが始まりだった。

いきなり「名前は何ですか」と話しかけた質の悪いナンパ師のような俺に、彼女は笑いながら「真理」と名乗った。今思えば、そんな不審者にすら優しい心で接する彼女の寛大さに惚れたのかもしれなかった。

それから俺たちは波が打ち寄せていた痕跡がないぎりぎりに座り、3時間にもわたって語り合った。その真理と名乗る女性は自分より1個下で、市内の女子大学に通っていて、一人暮らしで自炊が大変だとか、得意料理は肉じゃがだとか、さらには首にあるほくろで三角形を作れるとかそんな他愛もない話をした。

「なぜ海岸で一人でいたんですか」と聞くと、「黄昏たくて、」と真理は言った。もうその時はすっかり日も落ちていて、真理の表情は見えなかった。その問答の後しばらく沈黙が流れ、そこから解散までに時間はかからなかった。

次に真理にあったのは学祭だった。あの日の帰り際に真理に連絡先を聞いた俺は、真理が女子大だから出会いがないと嘆いていたのを思い出して学祭に招待したのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ