失踪事件の依頼
ここは日比谷の探偵事務所。
「つまり、娘さんは仕事の帰りにいなくなったって事ですね?」
「はい。小宮さん、探して頂けますか?」
小宮えり。探偵事務所の所長だ。グレイのスーツにネクタイといった男装で依頼人と面会している。依頼人は娘が一週間前に失踪したという。彼女は高島屋でドアガールをしていてその帰りにいなくなったという。
「今年尋常小学校を卒業して高島屋で働く事を楽しみにしてたんです。」
「分かりました。必ず探します。」
「ありがとうございます。」
依頼人は頭を下げる。帰り際玄関まで見送る。一礼して依頼人が見えなくななったのを確認すると扉を閉めソファーに座り込む。
「最近はこんは依頼ばかりだな。」
えりの元には同じ依頼がなぜか舞い込んでくる。女の子の行方不明事件ばかりだ。どの娘も共通して横浜でいなくなった女の子は12才、そして失踪した当日赤い靴を履いていた事だ。
「犯人は同一人物か?」
えりがそんな事を考えていた時
ピンポーン
インターフォンが鳴る。
えりがドアを開ける。
「久しぶりね。えりちゃん。」
「ゆきちゃん?」
ゆきであった。ゆきは勝手を知ったように上がっていく。
「事務所も立派になったのね。」
ゆきはえりと従姉妹同士で昔はえりの事務所で秘書として働いていた。しかし小説が軌道に乗り退職した。
「人気少女小説家かこんなところに来ていいのか?」
「取材よ。取材。」
「また僕をモデルに書くのか?」
ゆきのデビュー作「桜の簪の誓い」の主人公はえりをモデルにした男装の麗人だ。
「違うわ。怪談よ。今度怪談特集をやる事になったのよ。それでお便り募集したらこんな手紙が来て。」
ゆきははるこからの手紙を見せる。
「これ、僕に来る依頼と話が似てるな。」
「やっぱり。えりちゃんに頼んで良かったわ。失踪事件の依頼っていつ頃から?」
「4月の頭からだ。今日の依頼人で10件目だ。」
「依頼人の資料とかない?」
ゆきは机の上の資料を漁り始める。
「勝手に触るな。」
えりが止めようとするがゆきは1枚の書類を手にする。日付けは4月6日になっている。岩田君子という12才の女の子が行方不明になったようだ。東洋英和女学院の高等科に入学したばかりで華族の娘で失踪当日は赤いワンピースに赤い靴を履いてピアノの稽古に行ったが帰ってこなくて翌日えりの元に捜索依頼に来た。
「それで次の依頼がこれだ。」
フェリス女学院の初等科の6年生ではること同級生。翌日の始業式で児童代表で新学期の負担をする事になったため学校に遅くまで残って練習していたという。彼女も赤い靴を履いていたという。ちなみに依頼に来た日付は始業式の日である4月8日だ。
「フェリスの始業式ってはるこちゃんが最後に山下公園に行った日だわ。はるこちゃん霊感があって気分が悪くなったって。」
「つまりそういう事か。ゆきちゃん、君子ちゃんはもうこの世にいないかもしれない。」