少女雑誌社への手紙
ここは少女雑誌「少女画報」の編集部。
編集長は新聞を広げ見出しに載ってる記事を読む。
「日本軍もついにやったか。」
新聞の表紙には日本軍が中国大陸に新国家満州国を建国した事が書かれている。
「満州国建国 男装の麗人皇后の護衛務める。」
女流作家の仙多ゆきが新聞を覗き込む。
「ゆきちゃん、来てたのか?」
ゆきは7月号の怪談特集で作品を書くことになっている。読者から怖い話をお便りで募集をしている。今日はその便りを読みに来たのだ。
「この男装の麗人の特集やらないの?」
前号では宝塚少女歌劇の男役特集が好評だった。
「男装で白馬に跨がるなき王朝の王女なんて女の子は好きでしょ?」
「バカ言え。」
編集長はゆきに他社の雑誌を渡す。袴姿の男装の麗人が白無垢姿の女性と撮った写真が掲載されている。インタビューでは自身の妻だと答えている。
「そういう事だ。スキャンダルのあるやつなんて使えるか。」
「ゆきちゃん」
ゆきの担当の編集長の篠山が呼びに来る。
「向こうの部屋行きましょう。」
空いてる会議室には段ボールに入った大量の手紙が置かれている。読者の女の子達からのお便りだ。
「何か怖そうなのありました?」
ゆきが篠山に尋ねる。
「どれも似たような話よ。女学校のエス同士の心中した霊とかそんなのばかりだわ。だけど」
篠山が何か言いかける。
「だけど?」
「これは本物かもしれない。」
篠山はピンク色の封筒を渡す。中には一通の手紙が入っていた。
「仙多ゆき先生へ
私は横浜のフェリス女学院初等科の6年生です。いつも妹と楽しく読んでます。
私の通う学校ではこんな噂が流行ってます。それは山下公園で女の子が行方不明になるという噂です。夜暗くなってから赤い靴を履いてる女の子だけがいなくなるそうです。私の学校でも行方不明になってる生徒がいます。5日前には高等科の1年生が、そして4日前には私の友達の愛里ちゃんもいなくなりました。私は普段から人に見えない物が見えたり感じたりするのであの公園には近づかないようにしています。
ゆき先生、お願いです。愛里ちゃんを助けて下さい。
昭和7年4月27日 園寺はるこ」
それは横浜の小学生からの手紙であった。
「ゆきちゃん、この娘の話どう思う?」
「手紙だけだと判断ができないわ。それに幽霊以外の可能性もあるし。」
ゆきは女学生時代私立探偵をしている従姉の秘書をしていた。誘拐現場にも出くわした事もある。
「私、明日この娘に会ってみる。」
「ゆきちゃん本気?!この話このまま使っちゃえばいいのに。」
「いえ、私は書く前は取材するのがモットーなの。いい作品が書けそうだわ。」