92話 マウスピース飛ばす一撃ドン!
「という訳で、石倉先生に依頼したので。出来上がり次第スタンプとバッジは実装していきたいと思います」
どうせ観てるんだろうから配信で言って急かしてやろう。
そう思い、初回メン限配信の話をいくつか話した流れでバッジとスタンプを依頼した話を切り出した。
「あー・・・そう言えば・・・」
そんな話をした所為かお母さんに話すのを勧められた事まで思い出してしまった。
「メン限配信って通常配信から続けてやったんですよ。その所為か配信が終わった途端にトイレに行きたくなって」
話すつもりは無かったのに話し始めてしまった。
「実家住みなんで家族とバッティングすると怖いなー。と、思って急いで行ったんですよね」
うん、もう最後まで話すしか無いか・・・。
「無事に用を済ませてトイレから出たら目の前に妹が居たんですよ」
いや、さっきならまだ引き返せた。もう無理だけど・・・。
「僕の顔を見るなり何て言ったと思います?一言、邪魔って言ったんですよ。酷くないですか?」
この言い方だとみぃの好感度下がっちゃうか・・・?
「それでですね・・・って・・・コメント欄がめちゃくちゃキモいコメで埋まってるんですけど・・・」
コメント欄には「ご褒美でござる」「我々の界隈ではご褒美」「おい、そこ代われ」等のコメントが爆速で流れている。
「み、皆さん・・・かなり特殊な界隈にお住みなんですね・・・」
ご褒美はネタだと分かるけど「自慢すんな」のコメントにはリアルに吹き出しそうになった。
「で・・・まだ、続きがあるんですよ。以前、逆の立場になった事があって」
コメント欄はどんどんヒートアップしていく。
「その時にトイレに行かせてくれなかったんですよ。女の子が使った後なんだから10分は空けて使えって言われて」
コメント欄に目をやると。
「当たり前だろ」「やっぱ自慢じゃねーか」更には「憎しみで人を殺せたら・・・」と、中々に物騒なコメントまであった。
「それで、その時の仕返しに通せんぼしようとしたら無言でボディブローを喰らったんですよ。どう思います?」
どうにもぬいぐるみぃの好感度は爆上がりで僕の好感度はダダ下がりの様相を呈している。
「しかも!「どけ」と一言、言って僕を払い除けたんですよ」
予想通り、みぃを称賛する声が多数。そして、その遥かに多くが僕への妬み嫉みに塗れたコメントだった。
「え?ちょ・・・」
ヤバいコメントを見付けて、思わず声が出てしまった。
それは「伊達ちゃん推しだったけど、みぃちゃんに推し変します」というコメント。これは流石にマズいだろ・・・。
伊達さんが見ていませんように・・・。
「いや、何でもないです。アレです。妹が居ない人の夢を潰してしまいますけど、アナタの思う妹は幻想です」
コメント欄を見ると。やっぱり僕の味方は居なかった。
そこには「は?みぃちゃんが理想の妹だが?」や「そんな人生を送りたかった・・・」といったコメントが・・・そんな良いものじゃないんだけどな・・・。
と、思ってた以上の盛り上がりを見せた。
まぁ、それもぬいぐるみぃの力なんだろうけど。
配信終了後、リビングでお茶を飲んでいると。
「うげ、のぞむかよ」
「なんだよ・・・」
「邪魔。どいて」
押しのけられめるとは冷蔵庫を開き牛乳を取り出しコップに注いでいる。
「あー・・・今日、配信でめるとの話しちゃったけど大丈夫だった?」
「好きにすれば?」
「お、おう・・・」
「なんかその影響だと思うけど」
「うん」
「登録者2000人くらい増えた」
「マジ?」
「うん」
あの配信で?
いや、ぬいぐるみぃは元から人気だし。普通に配信してるだけでも結構なペースで増えてるはず。
「僕の配信の効果?」
「じゃない?配信終了後に一気に増えたから」
だったら僕の配信の効果か。
でも、自分の配信にそんな影響力があるのかと思うと怖い。
今回は良い方に転んだけど。もし悪い方に結果が出た場合・・・。
そう思うと不用意な発言には気を付けないといけない。
「良かった・・・んだよね?」
「ん?良いんじゃない?増えても減っても自分の好きなように配信するだけだし」
「そっか。でも、今後はあんまり名前出さない様に気を付ける」
「なんでっ!!」
「えっ・・・」
「盛り上がってたじゃん!」
「いや、うん、まぁ、そうなんだけど・・・」
「意味わかんない」
「いや、今回は良い方に結果が出ただけで。もし悪い方に出たら炎上とかもあるかもしれないし」
「その程度で離れるならファンじゃなくない?」
「まぁ、そうかもだけど」
「増えたら嬉しいけど、減っても配信はするし」
「うん」
「好きな事を好きなようにやるだけ。観てる人が増えても減ってもそこは一緒だし」
「そっか。うん」
なんか妹の方がしっかりと配信に向き合ってるのかもしれない。
これが人気の差なのかもしれないなぁ・・・。