91話 ハモ
メンバー限定配信を終え。ようやく長い緊張から開放された。
「ふぃ~~~~~」
全身が弛緩していくのが分かる。
それと同時に猛烈な尿意に襲われた。
「ヤバい・・・」
漏らしそうとかそういうのでは無い。
きっとめるとは僕の配信を観ていたはず。通常配信に続いてメン限配信も観ていたならタイミングが被ってもおかしくない。
急がなければ・・・。
急いで防音室、そして部屋を飛び出しトイレへと向かった。
「ふぃ~~~~~」
ガチャ───。
トイレを出ると真正面に居ためるとと目が合った。
「邪魔なんだけど」
「ん?トイレ?」
「そう」
「いやぁ、僕が使ったばっかだから10分は使わないで欲しいなぁ~」
「はぁ?」
「めるとが前に言ったじゃおうふ」
「どけ」
強烈なボディを喰らい。そして払い除けられた・・・。
ガチャ───。
酷くない・・・?
「アンタら仲良いねぇ」
「ど、どこが・・・」
「イチャコラして・・・てぇてぇ」
「どこがだよっ」
「この話、配信でしたら受けそうじゃない?」
「受けないだろ・・・それに、配信者の話は配信でしないって決めてるから」
「今のはみぃじゃなくてめるとじゃない?」
「ん?どういう事・・・?」
意味が分からない。今のはみぃじゃなくてめると・・・ん?どういう事??
「配信者の◯◯さんとどこどこで会いました。それで、何をしました。とか勝手に言うのはダメかもだけど」
「うん」
「妹に殴られました。なら良くない?って話」
「妹に殴られた話を配信でしたくない・・・」
「でも、受けるよ?たぶん」
「それは妹じゃなくぬいぐるみぃとして見てる人にでしょ?」
「まっ、そうなんだけどー。あんましないじゃん?」
「なにを?」
「家での話とか極々プライベートな話」
「Vだから極力避けたいってのはある」
「メン限でも素の姿が見たいみたいに言われてなかった?」
「たしかに・・・って観てたのかよっ」
「観てたー」
「メン限はマジやめて・・・」
「なんでー?いいじゃーん」
「いや、マジで恥ずい」
「なんでよ?もっと自信持ちな?」
「いや、違っ・・・」
違わないけど違う。
「分かる分かる。私も絵を書き始めた頃は人に見せるの恥ずかしかったし」
「いや、だから違うっ」
「うんうん。でもね?自分の作品には愛情を持たないと」
「いや、あの・・・」
「私にとっては絵だし。望にとっては配信でしょ?」
いや、だから違う・・・。
「愛情を持って配信してたら恥ずかしいとか思わないはずよ?」
いや、もう何の話・・・。
「そういう話じゃないとか思ってるでしょ?」
「うん・・・」
「そんなのは最初から分かってる」
「うん・・・ん?」
「何となく論点をズラして意味の分からない話にして言い包めようと思ったんだけどねー」
「はぁ?」
「自分でも良く分からない話になったからもう良いかなー」
「おいっ」
「そのお詫びに」
「うん?」
「バッジとかスタンプ無料でやったげるよ」
「え、マジ?」
「マジマジ。その代わりー」
「う、うん・・・」
「メン限も観て良いよね?」
相場を調べるのはお母さんに任せたから自分では調べていない。
数千円って事は無いだろうな・・・安くても数万円は掛かるはず。
しかも、人気イラストレーターともなれば10万円を超えても全然おかしくはない・・・。
「くっ・・・良いよ・・・」
「やったー」
「でもっ!」
「分かってる分かってる。コメントはしないからー」
「マジでしないでよ?」
「任セロリー」
不安しかない・・・。
でも、1ヶ月か2ヶ月か・・・のバイト代が浮くなら仕方無い・・・。
「んじゃ、どんなデザインにするのか希望あれば送っといてー」
「口頭じゃなく?」
「聞いただけだと忘れるし」
まぁ、同時に複数の絵を描く事は無いだろうけど。次から次へと違う絵を描いてるんだから見返せる物が無いと忘れるのも仕方無いか。
「後で送っとく」
「よろしくー」
部屋に戻り作業でもしようと思ったらディスコに大量のチャットが送られている事に気付いた。
送り主は見るまでもなくシュウさんと伊達さんで・・・。
メン限配信の感想が大量に送られてきていた。
「え・・・あの2人には入らないでって言ったはずなのに・・・」
[春夏冬中]入らないでって・・・
[伊達ごっこ]うん。新しくアカ作ったからそれなら大丈夫でしょ?
なるほどそう来たか・・・。
[春夏冬中]入らないで下さいって・・・
[兎合シュウ]新アカだからバレないし心配しなくて良いよ~
う、うん・・・。
[伊達ごっこ]それにみぃちゃんだけズルくない?
[兎合シュウ]みぃちゃんだけ入るのズルいもーん
と、2人共同じ事を言っていた。
似た者同士なんだから仲良くしてくれれば良いのに・・・。