89話 モーダル
なんとかシュウさんと伊達さんを宥め。気付いた時には日付が変わっていた。
「や、やっと終わった・・・」
ようやく2人共納得してくれ・・・た?諦めたっぽい感じではあったけど・・・やっと2人に対して謝り弁明を繰り返す地獄の時間が終わった。
「明日も学校だし・・・お風呂入らないとだ・・・」
椅子から立ち上がり伸びをすると身体のあちこちからポキポキと鳴った。
「時間も無いからシャワーで済ませようかと思ったけど湯船に浸かろうかな」
配信モードがまだ抜け切っていないのか独り言を呟きながら防音室を出てお風呂場へと向かった。
ガチャ───。
脱衣場のドアを開ける為に手を伸ばそうとしたタイミングでドアが開いた。
「なに?」
「風呂、入ってたのか」
「覗き?」
「誰がお前なんか覗くかっ」
先にめるとが入っていた様で丁度入れ違いになった。
脱衣カゴに脱いだ服を放り込み浴室に入ると浴槽にフタが被さっていない。
「あいつ・・・」
我が家ではその日最後にお風呂に入った人が浴槽の水を抜いて洗ってから上がる決まりになっている。
なのでめるとは自分が最後だと思ったのだろう。
「ま、まぁ、こんな時間だしな・・・」
と、シャワーで簡単に済ませ。お風呂を上がってからストレッチをして眠りについた。
「って事があったからだろうけど」
「うん」
「ドアを開けたら妹が着替えてる途中で」
「あー」
「その事を配信で話したら盛大に炎上する夢見たんだよね・・・」
「あ、夢ね」
翌日、放課後に恒例のワクドで伊達さんにこんな夢の話をしているのは・・・昨日に引き続き詰められない為に大して面白くもない面白小噺でもしてお茶を濁そうという打算の元。こんな話をしている。
「それで思い出したんだけど。なんでみぃちゃんにメンシ入らない様に言わなかったの?」
あれ?完全に藪蛇?
そりゃそうか・・・。なんでわざわざ今回詰められる事になった元凶のめるとの名前を出したのか・・・。
「いや、それは昨日も言ったけど・・・」
と、バイトの時間が来るまで伊達さんからの「なんで?」が止む事は無かった。
バイトが終わり帰宅すると。
「おかえりー。ご飯は?」
「食べるー」
「用意するから着替えといで」
「はーい」
着替えながらこの間の伊達さんとの会話を思い出す。
バイト帰りにスーパーに寄って買い物をするのはそこまで苦では無い。
でも、疲れて帰って来てそこから料理を作ってとなると難易度が桁違いに上がる。
これまでは何の感謝も無く当たり前に食べていた食事も有り難みが格段に増した。
「ごちそうさまでした。いつもありがと」
「は?」
「は?って何だよっ」
「望がそんな事言うなんて明日は槍でも降るんじゃない?」
「なんでだよっ」
感謝して損した・・・。
「美味しかった?」
「うん・・・」
「ふ~ん。これからは毎食、感想と感謝の言葉待ってるねー」
「もう2度と言わねー」
感謝はしてる。
だから、心の中で感謝を伝える事にしよう。
「あ、そうだ・・・」
「うん?」
「メンシ開設したんだけどさ」
「うん」
「バッジとかスタンプのデザインお願いして良い?」
「ご依頼でございましょうか?」
「ぐっ・・・依頼だね・・・」
「ご予算と納期はどうなさいましょう?」
「予算は・・・相場っていくらくらい?」
「どうなんだろ?私もやった事無いからなー」
「知り合いでやった事ある人に聞いといてくれる?」
「良いよー」
「相場でお願いします・・・」
「お?値切らなくて良いの?」
「いや・・・クリエイターに対して値切るのは違うでしょ」
「おぉ、分かってるねー」
正直な話。
クリエイターさんの技術だったり経験や時間が値段に反映されるんだから。
みたいな風潮があるからそう言ってるだけで、正直な所は良く分かっていない。
「ま、交換条件があれば安く出来るから。何か思い付いたら言いな」
「う、うん」
「何か無いかなー。面白い交換条件」
「怖ぇよ・・・」
「なに?前のも結果悪く無かったでしょ?」
「う、うーん・・・どうなんだろ・・・」
「登録者も増えたし、収益化も通ったし」
「だけどっ」
「後は望次第じゃん」
「うっ・・・」
「観て貰える環境は整った。後は望が自分でどうにする段階でしょ?」
「だね・・・」
「ほら?もっと感謝してくれて良いんだよー?」
「・・・・・・」
「ほら。ママ愛してるよー。って」
「ごちそーさまでしたっ」
「いつでもウェルカムだからねー」
母親が面倒臭いモードに入ったので食卓を後にして自室へと逃げ込んだ。
地道に自力で視聴者数を増やすのではなく、人の力で増やしたんだから。今、コメント欄が荒れてるのは仕方無い事か。
とは言え・・・どうやって乗り越えたものか・・・。




