86話 放課後、ワクドにて
「伊達さんって成績はどうなの?」
「いきなりなに・・・?」
うん、それはそう。
「いや・・・成績下がったら配信禁止令が出てね・・・」
「え・・・?マジ・・・?」
「うん」
「なんでなんでなんで?」
なんでって言われても・・・。
「昨日、大学行くか聞かれてね」
「うん・・・」
「行けるなら行きたいって答えたら」
「うん」
「だったらそろそろ勉強頑張らないとって話になって・・・」
「大学・・・行かなくて良いんじゃない?」
「え?なんで?」
「ウチの事務所来るとか」
「え?伊達さんの所って女性Vだけの所じゃなかったっけ?」
「んと・・・特例で?とか・・・」
「無理でしょ・・・」
それだったらめるとの所に行く方が現実味がある。
実際、鏑木さんから誘われてるし。
「伊達さん、大学は?」
「悩んでる」
「そうなの?」
「親は行けって言ってるけど。一人暮らしして配信に専念したい気もしてて」
「行けるなら行っといた方が良いんじゃない?」
「それは分かってるんだけど・・・」
「でも、大学行って、一人暮らしして、配信もしてってなるとキツそうだよね」
もし、僕がそれをやったら。更にバイトもしないといけないから完全にキャパオーバーしそうだ。
主に家事で。
「だから、大学は行かずに一人暮らしして配信したいなー。って」
「一人暮らしって憧れるよね」
「うんっ」
「でも、いざやってみると家事に追われて、親のありがたさを知るって聞くよね」
「う、うん・・・」
僕も一人暮らしはしてみたい。
でも、掃除はまだしも・・・買い物行ってご飯作って洗い物して、洗濯して干して取り込んで畳んで仕舞って。
その上で仕事とか学校行って、ってなると配信なんてやる余裕無い気がする。
あれ?もしかしなくても親って凄い・・・?
なんとなく一人暮らしって自由なイメージがあったけど。逆に自由な時間なんて無いのかもしれない・・・。
「なんか・・・もし一人暮らししたらって想像したんだけど・・・」
「うん・・・」
「絶望しかなかったんだけど・・・」
「私も・・・」
「親に感謝しないとだ・・・」
「だね・・・」
たまには肩の1つでも揉んであげないとだ。
「大学かぁ・・・」
「ちょっと行く気になった?」
「4年先延ばしに出来るんだもんね」
「だね」
「石神くんは行きたい大学ってあるの?」
「無い」
「だよねー・・・どうしたら良いのかな・・・」
「ふと思ったんだけど」
「うん」
「大学だとリモート講義とかあったでしょ?」
「あー、コロナの時ね」
「うん。で、今もある所はあるって聞くんだけど」
「そうなんだ」
「リモートの時の声ってさ、配信の時と同じだとバレそうじゃない?」
「ボイチェン掛けないと?」
「いや、普段使ってるマイクとかだと音良すぎるし、配信の時と同じ声になるから」
「あー!安いマイクとかでって事ね」
「安いマイクってか、イヤホンマイクとかで十分なんじゃない?」
「あ、そっか」
「リモート講義があるかどうか以前に大学に入れるかも分からないんだけどね・・・」
「そんなに成績悪いの?」
「中の中くらい?」
「春夏冬中だから?」
「中は関係無いっ」
「ふふふっ」
いや、関係あるのかな?
体型も中肉中背、勉強も運動も何をやっても普通・・・中くらい。
その上でVの名前が中って、前世で背負った業とか?
「あ、そういえばさ」
「うん」
「口止めはされてるんだけど」
「うん?」
「ウチの親が今度のイベントで中のグッズ出すかもって」
「!!!!!!!!」
「まぁ、予定は未定みたいな事言ってたから。間に合わなかったら出ないんだろうけど」
「何時っ!?」
「ちょ・・・伊達さん声が大き・・・ちょ、あっ」
急に立ち上がり、僕の両肩を鷲掴みにして前後に揺らしながら。
「何時?何時なの!?」
「ちょ・・・まっ・・・」
前後に激しく揺らされて確認は出来無いけど、周りの注目を集めてる気がする。
「おっ、落ち着いてっ」
伊達さんの腕を掴み揺さぶるのを強制的に止めさせた。
「次のイベントって言ってたはずだから・・・何のイベントかは知らないけど・・・聞いとくから」
「う、うん」
「分かったらチャット送るし」
「う、うん・・・あの・・・」
「うん、今日帰ったら聞くから」
「う、うん・・・じゃなくて」
「うん?」
「手・・・」
「あ、ごめん」
至近距離で伊達さんの腕を掴んだままだった。
角度に依っては抱き合ってる様に見えたかもしれない・・・。
お互い椅子に座り直し落ち着いて話の続きを・・・と、思ったけど周りの視線が気になる。
「あー・・・えっと、そろそろ・・・」
「あ、うん、バイトだよねっ」
「うん」
視線も気になるし。
「あの、石神くん・・・」
「うん?」
「分かったら直ぐ教えてね」
「あ、はーい」
さっきはごめん。とか、バイト頑張って。とか、じゃない所が伊達さんらしい・・。