84話 夢見る少女じゃいられない
「で?出さないんでしょ?」
「う、うん・・・」
バイトまでの時間、伊達さんとワクドで話すのが最近は恒例になりつつある。
「出せば良いのに」
「いや、話聞いてた?」
「聞いてたよ?」
「アクスタ作るとしたら大きい小さいに関わらず金型代だけで最低でも10-20万は掛かるんだよ?」
「うん」
「あきなちゅのアクスタなら1個10万でも買う」
1個10万のアクスタ・・・等身大?
「いやいやいや」
「みぃちゃんも買うでしょ?」
「買いそうで怖い・・・」
「それにあの女も買うでしょ?どうせ」
あ、あの女・・・?
「シュウさんの事?」
「そう」
ジルと戯れてた時は仲良かったはず。
いや、正確にはジルと戯れたくて追い掛け回してたけど一切相手にされてなかった時。か・・・。
まぁ、そんな事は置いといて・・・。
一緒に行った時は問題無かったはず。
その後でASMRコラボをした時の後・・・様子がおかしかった。
いや、この間の真っ赤なスポーツカー事件の時にも睨んでた気がしたけど。あれは僕じゃなくてシュウさんを睨んでた?
うん。
思い当たる節がそこそこあった。
「そんな事より!」
「う、うん・・・」
「出すとしたら何出すの?」
僕としては、シュウさんと揉めてる事の方が重要なんだけど。
そんな事よりも、出す予定の無いグッズで。もし出すとしたら何を出すかの方が大事なのか・・・。
「う、うん・・・出すとしたら、だよね?」
「うん」
「やっぱりアクスタに憧れはあるなぁ」
「だよね!!」
「う、うん・・・」
「他には!?」
「タペストリーも憧れあるよね。やっぱり」
「うんうん!」
「どっちも2Dだから。ぬいだと3Dでも感じられて良いよね」
「あきなちゅのぬい・・・最&高っ!」
ア、アンド・・・。
「キーホルダーとかスマホケースとかも常に身に着けられて良いよね」
「常にあきなちゅを感じていられる・・・」
「そういう意味で言うとラバーバンドとかの方が良いのかな?」
「あきなちゅが私の手首に・・・」
伊達さんの家にお邪魔した時。暴走するお母さんに対して諦めの境地に達した伊達さん。
無表情で虚空を見つめていたけど・・・。
今の伊達さんはその時と同じく虚空を見つめている。
ただ、その顔は・・・あんまり女の子が人前でするべきじゃない顔をしている・・・。
「だ、伊達さん・・・?出すとしたらだよ?出す予定は一切無いよ・・・?」
「なっ・・・なんでそんな事言うのっ・・・!」
「え、えぇ・・・」
「もうちょっとくらい夢見させてよっ!!」
で、でも・・・凄い顔してたし・・・。
「ご、ごめん・・・」
「思いついた!」
切り替え早いな・・・。
「うん、なに?」
「クラファンすれば?」
「クラウドファンディング?」
「うん」
「あれって何なの?イマイチ良く分かってないんだけど」
「んー、こんな感じでしたい事があります。で、その為にはお金が要るので援助して下さい。見返りはこんな感じです。みたいな感じかな?」
「それで、僕の場合だと」
「グッズ出したいからクラファンでお金を募ります。クラファンしてくれた人には特典があります。って感じかな」
「なるほどね~」
でも、僕のグッズにお金出してくれる人がどれだけ居るんだろうか・・・。
「でも、いくらくらい要るんだろ?」
「金型だけで10-20万要るって話だから。4-50万は要るんじゃないかな?」
「それはアクスタだけでしょ?」
「え?うん」
恐ろしい事を言い出しそうな予感しかしない。
「アクスタでしょ?タペでしょ?キーホルダーでしょ?ラバーバンドでしょ?」
「ちょちょちょちょちょちょっと待って」
「ん?」
「そんないくつも一気には出せないよっ」
「それは・・・一気じゃなくても順番に・・・」
「順番て・・・企業勢じゃないんだから年に1回も出せないと思うよ?」
「個人でも出してる人はいっぱい出してるよ?」
「それは人気のある人でしょ・・・僕は・・・」
「あ・・・うん・・・」
あ、こういう時はフォローしてくれないんだ?
「だからこそ、もし出すとしたらこれってのを出したいって思うんだよね」
「うん・・・」
「伊達さんが1番最初に欲しいグッズって何?」
「最初に・・・」
「うん」
「1個だよね?」
「うん」
「待って、考えさせて」
「うん」
それからいくら待っても「もうちょっと待って」としか返ってこず、バイトに行く時間となった。
バイトから帰りディスコを送ったけど、それでもまだ「もうちょっと待って」としか返ってこず。
何なら、翌日学校で聞いても「もうちょっと待って」だった。