80話 緑の中を走り抜けてく真っ赤な車
やっと授業が終わり、帰り支度をしていると。
「今日もバイトだよね?」
「うん」
「バイトまでの時間ちょっと話さない?」
「ごめん、今日はちょっと用事があって」
「そうなんだ」
「うん、ちょっと急ぐから。またね」
「うん」
伊達さんには申し訳ないけど・・・今、途轍も無く急いでいる。
シュウさんから到着したと連絡が20分くらい前にあったから・・・。
校門前で20分も待たれたりしたら注目を浴びるし。
このご時世、下手したら警察を呼ばれたりも・・・。
駆け足で。でも、高級ASMR用マイクを持ってるから振動を与えない様に丁寧に急いで校門に向かうと。
「あ、ここ、ここ~」
「はい?」
校門前にシュウさんは居た。
でも、まさか真っ赤なスポーツカーで。しかも、オープンカーに乗って待っているなんて誰が想像出来ただろうか・・・?
「な、なんで・・・」
「ん?とりあえず、乗って乗って」
「は、はい・・・」
マイクを後部座席に載せようかとも思ったけど、怖いので抱えて乗る事にした。
「えっと・・・シュウさんって車乗れたんですね」
「大人ですからっ」
キリッじゃない・・・。
「それに、凄いの乗ってるんですね」
「これ?これはレンタカー」
「あ、そうなんですね」
「時間も無いし。どこかお店に行くのも微妙でしょ?」
「そうですね」
「車だったら送っていけるし周りを気にしなくても良いから一石二鳥って思ってね~」
校門前でめちゃくちゃ注目は浴びてたし、もっと周りを気にして欲しいとは思うけど・・・。
「それに、久しぶりに運転したいな~って思ったから」
「じゃあ、一石三鳥ですね・・・」
「だね~」
久しぶりなのか・・・。
「シートベルト締めてね~」
「はい」
「それじゃ~、しゅっぱ~つ!」
出発と言ってから出発する気配がない。
「あれ?あれ?」
フロントガラスにウォッシャー液が噴出された。
「あ、そっか。左ハンドルだから逆か」
怖い・・・。
「だ、大丈夫ですか・・・?」
「大丈夫、大丈夫。ゴールドだから」
「ゴールド・・・」
「無事故無違反っ」
おぉ・・・だったら大丈夫か。
「ペーパーゴールドだけどねっ」
「なんですか?それ」
「運転しないから事故もしないし違反もしないペーパードライバーの事~」
まぁ、運転しないなら違反もしないか・・・って・・・。
「運転するのどれくらいぶりですか?」
「んー・・・あっ、2年振りかな?」
あぁ、思ってたよりは最近だった。
「ゴーカートも入れたら」
「ゴーカートは入れないです!入れなかったら・・・?」
「入れなかったら~・・・免許取った年に友達と北海道に旅行に行って、その時に運転した以来かな?」
「それって・・・」
いくつの時に取ったんですか?とは聞けないな・・・。
「うん?」
「えっと、あの・・・」
「うん」
「すっごい注目されてるんでそろそろ出発しませんか・・・?」
「はーい」
ようやく車が走り出したが視界の端で伊達さんが物凄い顔でこちらを睨んでいた様な気がしたけど・・・見間違いだと信じたい。
「久しぶりって言ってましたけど普通に運転上手いですね」
急ブレーキを連発したりガクンガクンなったりするかと心配したけど走り出してからは周りの流れに乗って普通に普通な運転をしていた。
「普段から森男カートで鍛えてるからね~」
「な、なるほど・・・」
だったらカーブを曲がる時はジャンプしてからドリフトしてる気分で曲がってるんだろうか?
せめて星とかのアイテムは使わないでいて欲しいな・・・。
「一旦、家に帰ってからバイト行くの?」
「あ、直で行きます」
「じゃあ、このままバイト先まで行っちゃうね~」
「はい、お願いします。って、知ってるんですか?僕のバイト先」
「知らないよ~、どの辺り?」
「えっと、確か住所が・・・」
「住所で言われても分からないかな。近くに何がある?」
「えっと、最寄り駅が・・・」
「電車乗らないから駅も分からないかも」
「えっと、じゃあ、ナビするんでそれでお願いします」
「はーい」
それからはと言うと・・・。
運転に慣れていないシュウさんと車に乗りながらの道案内に慣れていない僕とのマリアージュと言うかケミストリーと言うか・・・ワーキャー言いながら迷ったりして、バイトの時間ギリギリにコンビニに着いたは良いけど精神的にクタクタになってしまった。
「えっと・・・マイクありがとうございました。あと、送って貰えたのも・・・」
「ううん・・・それじゃ、バイト頑張ってね」
「はい・・・」




