74話 長考に好手なし
放課後、恒例となったワクドで簡単な打ち合わせをした後。家に帰ってからも収益化申請や収益化後に出来る様になる事等を調べた。
「う~ん・・・とりあえずはメンバーシップだけで良いかな」
収益化申請が通ってもスーパーチャットはしばらく止めておこう。
暴走して上限スパチャを投げそうな人が若干名・・・まぁ、3人居るからなぁ。
[春夏冬中]序盤は伊達さんに収益化講座をして貰って
[伊達ごっこ]うん
[春夏冬中]僕は生徒役って感じね
[伊達ごっこ]うんうん
[春夏冬中]それで、中盤というか終盤になるのかな?
[春夏冬中]後半は雑談形式で流して。そのままエンディングって感じで大丈夫?
[伊達ごっこ]うん!
昼間、学校で顔を合わせながら話した時は機嫌悪そうだったし、ワクドでもご機嫌斜め具合は維持されていた。
なのに、家に帰ってからディスコでのチャットは機嫌良さそうに感じる。
文字だから?
[春夏冬中]そろそろVC繋ぐ?
[伊達ごっこ]うんっ!
まだ配信予定時間まではそれなりに時間がある。
なので打ち合わせというよりもただの雑談をしながら予定時間を待っているだけなんだけど・・・。
「学校から帰った頃には出来てると思うって言ってたんだけど」
「うんうんっ」
「帰ったら寝てるっぽくてね」
「うんうんっ」
「期待してたのに見れなくてさー」
「尊いっ・・・」
「え?」
「ううん、なんでもない」
僕が喋るばっかりで伊達さんは相槌を打つ係になっていた。
それから・・・時折、謎の言葉を発していたけどアレは何なんだろう?
「伊達さん達も早く見たいだろうから早く収益化通ってくれると良いんだけどね」
「うんうんっ」
「前のはSDだったでしょ?」
「うんうんっ」
「でも、今回のはガチのだから」
「うんうんっ」
「背景は見たんだけど、すっごい描き込まれてたんだよね」
「尊みを集めてはやし最上川」
「え?」
いきなり、俳句?
とうとみ?豊臣?歴史の話してる?
「ううん、なんでもない」
「そう・・・?」
「うんっ」
始まるまでの相槌マシーンでたまに良く分からない事を言う伊達さんはどこへやら。
配信が始まると安定感たっぷり。ベテラン感のある回しで配信をリードしてくれた。
正直に言うと・・・大手Vtuber事務所でトップクラスの人達に揉まれて成長してきた伊達さん。
個人で努力はしてきたつもりだけど自己満足でやってきた僕。
この差をまざまざと見せつけられた様でかなりヘコんだ。
伊達さんだけじゃなく、シュウは勿論の事。
きっとめるとでさえも僕なんかよりもずっと経験を積んでいて配信者として必要な能力は圧倒的に高いはずだ。
そんな事を今更ながらに気付かされた配信だった。
「めるとってさ?」
「うん?」
「普段どんな事考えながら配信してる?」
「どんな事?」
「コメントを拾う頻度とか、どんなコメントを拾うとか、そのコメントをどう広げるかとか」
「なんとなく?」
「タイムキープとかは?」
「なにそれ?」
「時間配分」
「んー、あんまり意識してないかな」
「そうなのっ?」
「最初の頃は意識してたかもだけど。今はあんまりかな」
「それは慣れて感覚で出来る様になったって感じ?」
「だーかーらー、意識してないって」
「う~ん・・・」
意識してないだけで、押さえるべき要所は押さえつつフレキシブルに対応してるって感じなんだろうか?
人気配信者と僕との違いはそこが1番大きい気がする。
キッチリやろうと思うとコメントなんて関係無しに予定していた通りの進行をするだけ。
かと言って、予定を立てずにコメントメインでやろうとするとグダグダになって収集がつかなくなる。
配信をちゃんとエンタメとして昇華出来ている人はきっと押さえるべき箇所をしっかりと押さえるやり方を知っているんだと思う。
やり方も各々で違うとは思うけどきっとそんな感じなんだと思う。
「のぞむっ!」
「え?なに?」
「話、聞いてなかった?」
「あ、ごめん。考え事してた」
「いい事教えてあげる」
「うん」
なに?配信の秘訣?極意?
「バカの考え休むに似たり」
「誰がバカだっ」
「ごめん、間違えた」
「う、うん」
ん?あっさり引き下がった?
「のぞむの考え休むに似たり。だった」
「おいっ」
「バカなんだから無駄に考えてないでやりたい事やればいいじゃん」
「うっせ。バカバカ言うなっ」
まぁ、でも・・・真理かもしれない。
いや、待て・・・。
考えずにやって来て伸びてないんだからもっと考えてやった方が・・・。
いや、でも、考えてやってるよな?
だから、考えずにやった方が・・・?
分からん・・・。




