72話 猫系彼女
「って感じで言ってたから。そこを気を付ければジルも懐くんじゃないかな」
「分かった。ありがとー」
バイトから帰り、忘れない内に。と、伊達さんにディスコを送ると予想外にご機嫌だった。
「私のために情報収集してくれたんだね。ホントにありがとー」
「いえいえ、どういたしまして」
かなり警戒していただけに肩透かしを喰らって不完全燃焼感はあったけど、そんな面倒臭い満足感は要らないので大成功だった。
「それにしても、あきなちゅは周りに振り回され過ぎだと思う」
「そうかな?」
そうかな?とは言ったけど・・・正直、振り回されっぱなしだ。
「あきなちゅは最高の配信者なんだからもっと自分を持って!」
「うん、ありがとう」
昼間の伊達さんが嘘かの様に優しい。
やっぱり乙女心は難しい。
ただ・・・翌日、学校で話しかけたら昨日よりも悪化していて、返事すら返して貰えなかった。
実に難しきは乙女心。
もう難しいとかじゃなく完全に理解不能。
これが理解出来ないと彼女は出来ないのだろうか。
もしそうなら当分は出来ないだろうし、下手したら一生出来ないままかもしれない・・・。
世の彼女が居る男達はきっとそんな複雑怪奇な乙女心も理解してちゃんとフォロー出来るから彼女が居るのだろう。
土日、みっちりとバイトを詰め込み。
ちゃんと働いていたけど、カップルや夫婦のお客さんを見掛ける度に「あの人は乙女心が理解出来る人」と、謎に尊敬していた。
そして、コソっと拝んでご利益があればと期待した。
「乙女心、難しいなぁ・・・」
「え?石神君、彼女出来たの?」
「え?あ・・・」
心の声が漏れてしまった・・・。
「いや・・・」
「猫って彼女が飼ってる猫とか?」
「あ、いや、じゃなくて・・・」
妙に店長が喰い付いてくる・・・。
「もしかして・・・猫を彼女だと思い込んでるとか・・・?」
「え?僕の事、そんなヤバいヤツだと思ってました?」
「石神君ってパソコンとか詳しいからオタクなんでしょ?だから、そういう妄想とかするのかな?って」
「オタクに対する偏見が凄いっ」
「じゃあ、彼女出来たの?」
「で、出来てないですけど・・・」
「猫は?彼女が飼ってるんじゃないの?」
「彼女じゃないです」
「じゃあ、誰?」
「えっと・・・何て言ったら良いんだろ?知り合い?先輩?」
「その人の事狙ってるって事じゃないの?」
「違います。だいぶ年上なんで」
って、言うと失礼か。
僕が相手にされないって意味で言ったけど受け取り方に依っては地雷ワードかもしれない。
「私より?」
「店長より年上だと思いますよ」
「そっかー、でも、障害がある程燃えたりしない?」
「いや、そういうんじゃないです」
「じゃあ、乙女心の相手って誰?ここでバイトしてたり・・・」
「しないです」
「そっかー、学校の子?」
「まぁ、そうですね・・・」
「ちなみに」
「なんですか・・・?」
「社内恋愛は禁止じゃないけど、推奨はしてません」
ん・・・?
「なんでですか?」
「ほら?付き合ってたらデートとかで同時に休んだりするでしょ?」
「あー、そうですね」
「1人ならまだしも、いきなり2人に休まれたら店が回らないから」
「めちゃくちゃ現実的な理由ですね」
「そりゃそうよ」
「店長ですもんね」
「シフト管理、面倒臭いんだから」
「でしょうね」
「その点、石神君は滅多に休まないから助かってます」
「こないだ休み貰いましたけど」
「たまの事だから許す」
「あ、ありがとうございます・・・」
「で、その子は可愛いの?」
「ええっ?」
「ん?」
「よく、その流れで話を戻しましたね・・・」
「恋バナ楽しくない?」
「楽しくないです・・・ってか、店長が期待してる様な話じゃないですよ?」
「えー?恋バナじゃないの?」
「違いますって」
「えー、なぁんだ・・・面白くない」
「店長は彼氏さん居るじゃないですか」
「それが?」
「え?」
「そんなリアルなのはどうでも良いの。彼氏の話なんて愚痴しか出ないよ?」
「そ、そうなんですね・・・」
「人の恋バナってね?」
「はい・・・」
「無責任に適当な事言って盛り上がれるから楽しいのよ」
「なるほど・・・」
中々に最低な理由だった。
「石神君は好きな子居ないのー?」
「えー・・・まだ続くんですか・・・?」
「キュンキュンする事に飢えてるのよ」
それは僕にじゃなく彼氏さんに求めてくれ・・・。
その後もお客さんが来るまで質問攻めに遭い続けたが最後まで店長の期待に応えられず最終的には同情される結果となった。
「お疲れ様でした。お先に失礼しまーす」
「石神君、頑張ってね。色々と・・・」
そ、そこまでっ・・・?