71話 合法ドラッグ
兎合シュウさん、獏枕ゆめさんとのコラボ後に挨拶をしてからサーバーを抜け。
まずした事は・・・。
黒耳の入念な掃除。
分解したりは流石に怖くて出来無いけど、見える範囲は入念にウェットティッシュで拭き。残った湿り気をタオルで綺麗に拭き取った。
「よし・・・」
それから専用のジュラルミンケースに丁寧に仕舞い込んだ。
コンコン───。
「のぞむ」
ガチャ───。
「なに?」
「アレなに?」
「アレ?」
「ASMR」
「多分、もうやらない」
「なんで?」
「もうマイク返すから」
「なんで?」
「なんでって・・・返せって言われたから」
「マイクがあったら?」
「あったら・・・どうだろ?」
「あったらやるよね?」
「いや、それは分からないかな」
「あるのに?」
「え?持ってんの?」
「持ってる訳ないじゃん」
「え?どういう・・・?」
「たらればの話!」
「え?うん」
「もし持ってたらASMRやる?」
「んー・・・僕は別にコレクターじゃないから」
「うん」
「そんな高いマイク持ってたら使うかも?」
「わかった」
そう言うとめるとは部屋に帰っていった。
「なにがっ!?」
ガチャ───。
「のぞむには関係ない」
バタン───。
えぇー・・・。
絶対に関係あるだろ・・・。
まぁ、それは良いとして・・・いや、全然良くは無いんだけど、それよりもやるべき事をやらないとだ。
黒耳返却を伊達さんにお願いしないといけないのでベッドに横になってLIMEを送った。
「ちょっとお願いがあるんだけど。シュウさんから借りたマイク返す事になって。代わりにシュウさんの家に届けて貰えないかな?」
「なんで私が?」
「ジルに会う口実にならないかな?」
「嫌われてるのに?」
「そこはほら?慣れとかもあると思うし。ダメかな?」
「まぁ?そこまで言うなら?代わりに届けてあげなくもないかな」
「本当?ありがとう!」
「貸し1だからね?」
「う、うん・・・」
これが後々あまりにも大きな代償を払う事になる貸しとなる事をこの時の僕は知る由もなかった。
・・・みたいな事になったりはしないよな?
この間は伊達さんと2人だったけど。もし1人でシュウさんの家に上がった事がリスナーさんにバレでもしたら炎上の度合いは前回の比じゃないのは明白だ。
シュウさんのその辺りの危機管理がガバなのが気に掛かるけど・・・そこは、まぁ、僕が口出しする様な問題では無い気がする。
「シュウさんと連絡取って、行く日が決まったら教えて貰える?」
「分かった」
「それから」
「もういい?今ちょっと忙しいから」
「ごめん」
一瞬だけ機嫌が良くなった様に感じたけど。それは、気の所為な範囲内だった。
そして、翌日もご機嫌が斜めな状態を維持している様で・・・。
話しかけてもほぼ会話が続かず・・・聞いては貰えるけど返事は基本的に期待出来なかった。
「店長って猫とか好きだったりします?」
「実家で飼ってたかな」
「猫に好かれる方法ってあります?」
「構わない。自分から行かない。来るのを待つ。この3つじゃないかな?」
「ですよね」
コンビニでのバイト中、お客さんが切れてやる事が無くなった一瞬にそんな話を切り出してみた。
「後は、時間を掛けて餌付けかな。嫌われててそれなら大抵はどうにかなるんじゃないかな」
「やっぱりチュールですか?」
「チュール最強だね」
「ですよね」
「私の友達でね?」
「はい」
「めちゃくちゃ猫が好きな子が居て」
「はい」
「どのエリアにどの猫が居てってのを把握するくらいの子で」
「それはちょっと病的なレベルですね」
「本当にそうなの」
そこはちょっと否定して欲しかった。
「それでね?」
「はい」
「その子は常にカバンの中に鰹節を常備してて」
「え?」
「野良猫の餌付け用に」
「なるほど・・・」
「野良って警戒心が強いから触らせて貰えないんだけど」
「はい」
「餌付けして安心させると。触られたくないけど鰹節は食べたい。その狭間で揺れるらしいの」
「絵面として面白そうですね」
「うん。それがね?」
「はい」
「ある時、鰹節からチュールにシフトしたみたいなんだけど」
「はい」
「鰹節の時は触らせて貰える率が2-3割だったみたいなんだけど」
「はい」
「チュールになったら5割超えたみたい」
「へぇ~、そんなに違うんですね」
「猫にとってアレはもう麻薬に等しいって言ってた」
「そんなにですか」
「落としたい猫が居るならやっぱりチュールじゃないかな?」
「分かりました。ありがとうございます」
伊達さんにはチュールを持たせよう。
それでジルが落ちてくれれば伊達さんの機嫌も直るだろうし。
まぁ、ジルが落ちるのか。それとも堕ちるのかは考えない様にしよう。




