64話 早退性理論
ジルには触らせて貰えず、近付く事さえ許して貰えないにも関わらず伊達さんは一向にジルを諦めなかったので・・・無理矢理引き剥がし連れて帰る事になった。
そして、マンション前までシュウさんは見送りに来てくれた。
「帰りは電車?」
「の、予定です」
「もう夜だし、タクシー代くらい出すよ?」
「いやいや、まだ全然電車のある時間ですから」
「うーん、配信の出演料って事でも?」
「このマイクを借りる為に来たんで、それだったら僕が出すべきって事になりますよ?」
「うーん・・・」
「伊達さんはちゃんと送って行きますから」
「うん、任せたっ」
「家に着いたら一応連絡入れますね」
食事を御馳走になった事や家にお邪魔したお礼を述べてから、まだ渋っている伊達さんの手を引いて駅に向かった。
駅に着く頃には普段の伊達さんに戻っていたけど・・・。
「なんで石神くんの膝にはジルが乗って・・・私の所には全然来てくれないのよ?」
そう言われても知らないよ・・・。
思い当たる節があるとすれば、ジルは追ったら逃げる。そして、待ってたら来る。
僕はジルに構わず伊達さんは追いかけ回していたから、そういう事なんじゃないかと思う。
「なんかズルしてたんじゃないの?」
「え?ズルって何を・・・」
「全身にチュールを塗ってるとか?」
「そんな特殊性癖は持ち合わせてないかな・・・」
「じゃあ、マタタビ?」
前言撤回。
普段の伊達さんに戻ってはいなかった。
普段の伊達さんは普通を装って擬態していた場合、これが通常通りなのかもしれないけど。
「相性とかじゃない?」
「わ、私と生き物との相性が悪い・・・?」
「対象が大き過ぎるっ」
「なによ」
「ジルとの相性」
「・・・・・・」
それ以降、伊達さんが口を開く事は無く。
家まで送り届けたが一切口を聞いてくれなかった。
翌日。
猫好きな人に猫との相性が悪くて嫌われてる的な事を言うのは余りにも地雷過ぎたと反省して謝ろうと思いながら登校した。
「はよーっ」
「石神、ちょっと来い」
「え??」
と、田中君に腕を引っ張られ、また階段の踊り場に連れて来られた。
「お前、はるなつなんとかってヤツだろ」
「え・・・」
「やっぱ声一緒じゃねーか」
「なにが・・・?」
「昨日、配信に出てただろ」
あぁ・・・シュウさんの配信観られてたのか・・・。
「うん」
「ネトゲの知り合いなんじゃなかったのかよ」
「あー、うん。Vの繋がりって言ったらいいかな・・・?」
あの時も否定しなかっただけで僕自身はネットの繋がりとしか言ってなかったはずだから嘘は吐いてないはず。
「なるほどな・・・」
「もういい?」
「おう」
なんか納得してくれたみたいだ。
おっと・・・。
「あ、僕が配信やってる事・・・」
「分かってるよ。誰にも言うなってんだろ?」
「うん」
「誰にも言わねーよ」
「うん、ありがと」
そして、再び教室へと向かった。
「伊達さん・・・昨日はごめんね」
「いいよ」
「うん」
「どうせ私は世界の全てから嫌われてるんだから・・・」
だから、対象がデカ過ぎるっ・・・。
「いやいやいや、そうは言ってないじゃん」
「だって、猫に嫌われるって言うのはそういう事だよ」
そんなにか。そんなになのか・・・。
「いや、あれはきっとジルとの相性・・・いや、ジルの機嫌が悪かっただけだよ」
「でも、石神くんには懐いてた・・・」
「猫って気まぐれでしょ?」
「それはそうだけど・・・」
「昨日はそういう気分だっただけだと思う」
「そう・・・かな?」
「だから、次に会った時はまた違うんじゃないかな?多分」
「そうかな?」
「たぶん・・・」
「そっかー、そうかー、うんうん」
伊達さんのご機嫌も良くなった様で良かった・・・。
「おーい、授業始めるぞー」
と、またしてもいつの間にか先生が教室に入ってきていた。
「おい、伊達どこ行くんだ?」
「早退します」
「お?おぉ・・・体調でも悪いのか?だったら保健室にでも」
「いえ、一身上の都合です」
「そ、そうか・・・お、お大事に?な?」
そうして、伊達さんは早退してしまった。
え?もしかしてジルに会いに行った?
まさかね・・・。
と、切り捨てるには怖かったので急いでシュウさんにもしかしたら今から伊達さんがそちらに向かうかもしれない旨をディスコを送った。
そして、伊達さんにもジルは来られると逃げるからジルから来るまで待つ事。と、送った。
あの時、病気だと言ったのは間違っていなかった。
猫好きもここまでくれば十分に病気だと思う・・・。




