63話 不治の病
「超絶ゲリラ配信ごめんね~」
僕の杞憂を他所にシュウさんの自宅からオフコラボ配信が決行されてしまった。
「メンツはこの間と一緒で伊達ごっこちゃんと春夏冬中くんでーす」
「こんばんは~」
「こんばんはー」
シュウさんは椅子に座ってPCに向かい、僕と伊達さんは床に座って間にマイクを1本置いている。
「2人の音量どうかな?ちょっと小さい?これでどうかな?」
スマホを使えばコメントがどんな感じなのか見る事は出来るけど、怖くてどうしても見る事が出来無い。
「実はオフコラボで2人が私の家に来てくれてまーす」
あぁ・・・言っちゃった・・・。
「ASMR用のバイノーラルマイクをあきなちゅに貸す事になって、それで取りに来て貰ったんだよね~」
でも、そうか。
僕1人で家に上ったと思われるよりは伊達さんと2人の方が炎上はしにくいか。
「おー、おー、コメントが早い」
ゲリラだから同接は少ないはずなのに・・・普段から同接の多いシュウさんでも早いと思えるくらいに皆コメントしてるみたいだ・・・。
「えー?2人の関係?」
ん?
「どうなの?」
「「え?」」
「2人は付き合ってるとか?リスナーが気にしてるみたい」
「付き合ってないですっ」
「言っていい?」
え?なにを・・・?
「え?」
「いいよね?私達、実は・・・」
え?なに??
「同級生なんです」
そっちかっ。
「凄いよね~」
「知ったのは最近なんですけど」
「実は私の従姉弟も2人と同級生なんだよね」
「縁って凄いですよね」
「意外と皆の周りにもVtuberとか居るのかもね」
「増えましたからねー」
「5万人以上居るとかどこかで聞いた気がするよ?」
「そんなに居るんですね」
「あきなちゅはその中でも特殊だと思うけどね~」
「え?僕ですか?」
「同級生がVtuberで」
「はい」
「妹もVtuberって中々居ないと思うよ?」
「あー・・・たしかに・・・」
「ママもVになりましたよ」
「あー、石倉先生もか~」
「ですね・・・流石にそこまでの人は中々居ないかも・・・」
兄弟で配信者とかはたまに見かけるけど、その親までってのは聞いた事が無い。
しかも、ウチの場合は各々がそれぞれ別個でやってて最近までその事を知らなかったって事が珍しいと思う。
「だから、あきなちゅの配信に行けばみぃちゃんとか伊達ちゃんの裏話とかも聞けるかもね~」
お?宣伝してくれた?
「でも、別の配信者さんの名前を出すのは禁止だから。あきなちゅから自然と出て来るのを待っててね~」
「ですね。ぶっちゃけ・・・喋るようになったのは最近だからそんな裏話とかも無いですし」
「そうなんだ?」
「みぃは・・・クソ生意気な妹ってだけですし」
「アハハ。配信の感じのまんまとか?」
「かもですねぇ」
「なんかコメントであきなちゅの声が違うって言われてるんだけど」
あ・・・。
ボイチェン無いからそりゃそうだ・・・。
「えっと・・・ちょっと喉の調子が良くなくて・・・」
「そうなんだ?風邪?」
「かもしれないです・・・感染したら悪いからそろそろ僕は退散しようかな・・・」
「だったらもう終了かな」
と、急遽始まり突然終わるというゲリラ配信が終了した。
「私も気になってたからつい拾っちゃったんだけど。ごめんね」
「あぁ、全然大丈夫ですよ」
「そっか。でも、普段は声ってどうしてるの?」
「薄くボイチェン掛けてイコライザーで補正してます」
「ボイチェンも掛けてたんだ?IQだけかと思ってた」
「違和感無い程度なんで」
「なるほどね~」
「感覚としては自分に聞こえてる声に近づけたイメージなんですよね」
「あー、なるほど」
自分の部屋以外で配信した事が無い所為か・・・ボイチェンの存在を完全に忘れていた。
「でも、良いよね」
「声ですか?」
「お?自分の声に自信アリ?」
「いやいや、自信あったらボイチェン掛けないですよっ」
「普段、声バレを気にしなくて良いから」
「あー、シュウさんとか伊達さんくらい登録者多いと気を付けないとですよね」
「だから、外でご飯食べる時は個室じゃないと集まれないのよね」
「ですよね」
それも有名税ってヤツかもしれない。
「って、あれ?伊達さんは?」
いつの間にか居なくなっていた。
「さっきフラフラ~っと出てったよ」
「あぁ・・・病気が発症したかもですね」
「うん」
きっとジルに引き寄せられて出て行ったんだろう。
そして、避けられまくって涙目になっている姿が目に浮かぶ。




