62話 解せぬ
「パンツ見えちゃう!」
「え?」
シュウさんのその言葉の意味が一瞬理解出来なかったけど、慌てて後ろを向いた。
そして、ゆっくり振り返ると先程の恨みがましい目では無く、軽蔑した様な視線を向けてきた。
「いやっ、違っ、見てないからっ」
「まぁ、見せパンだから見られても良いんだけど」
だったらさっきの視線は何だ・・・。
「それじゃ、アイス食べよ。伊達さんも食べるよね?」
「はい・・・」
ソファに腰を下ろしローテーブルに出されたちょっと高いアイスを食べる。
「あれ?これって」
「そう」
「体温でアイスが溶けるスプーンですよね?」
「うん。100均のだけどね」
「気になってたんですよ」
「うんうん」
「でも、滅多に食べないアイスの為に買うのもなー。って、思ってて」
「どう?」
「思ってる以上にスッと入りますね」
「ね?」
これは良い物だ。
でも、わざわざアイスの為。しかも、カップアイスの為だけに買うのも微妙なのは変わらない。
「甘い物食べてるとしょっぱい物食べたくなるんだよね~」
と、ポテトチップスをポリポリと食べ、またアイスを食べる。
「無限ループ止まらないですよね。お?」
と、またジルが僕の膝の上に乗ってきた。
「ずるい・・・」
また恨みがましい視線をこちらに向けてくる。
「いや、今なら撫でられるんじゃない?」
「!?」
パッと花が咲いた様な笑顔になりジルを撫でだした。
「ね?」
コクコクと頷きながらもその撫でる手は止まらない。
「ちょっと良い事思いついたんだけど」
「はい」
「折角だから配信しない?」
「え?」
「Vtuberが3人も揃ってて配信しないのってもったいなくない?」
それは確かにそうだけど・・・。
「いや、でも・・・僕、男ですよ?」
「うん、見たら分かるけど?」
「いや、じゃなくて・・・ガチ恋勢に殺されちゃいますよっ」
「私にはそんなの居ないって」
と、ケラケラと笑っている。
「いや、居ますよ・・・それもいっぱい・・・」
「そうかな?」
「それに伊達さんにもいっぱい居ますし」
「あー、そっかぁ・・・」
「だから、やるとしたら2人でやった方が良いと思います」
「私と伊達さん・・・?」
以外にどの組み合わせが?
「伊達さんは異性とのオフコラボNGだよね?」
「え?別に何も言われてないかな」
「そうなの?」
「うん」
「だったら配信しても良いんじゃない?」
「そんな事よりも・・・」
「「そんな事よりも?」」
「ジルがふかふかで尊い・・・」
「あ、うん・・・良かったね・・・」
「じゃ、準備して来るね~」
「え、ちょ・・・」
膝の上にジルが居る所為でシュウさんを追い掛けられない。
「伊達さん。シュウさんを止めてきてっ」
「無理」
「なんでっ!?」
「ジルが私を離してくれない」
間違って・・・は、無いのか・・・?
ジルから手を離したくないだけだろ。と、めちゃくちゃマジレスしたい。したいけど、したらキレられそうな気がする。
そして、放置しても良いか。と、思える程に清々しいレベルの嘘でどうして良いか悩む。
「ジル・・・そろそろ僕から下りて、伊達さんの方に行かない?」
そんな事を言った所で通じる訳が無いのは分かっている。
すると、ジルの視線が僕の手に釘付けになった。
左右に振っても視線はしっかり手を追い掛けている。
一瞬フリーズしたかと思ったらギョッとした表情になり、慌てた様子で後ろを振り返った。
「やっとこっち見てくれたっ。ジルー、かわいいねぇ」
よっぽど驚いたのか真上に飛び上がり、身を翻して床に着地。そして、その勢いのままにシュウさんが居るであろう配信部屋へと駆けていった。
「なんでー・・・」
「いや、十分撫でさせて貰ったでしょ・・・?」
「それはそうだけどー・・・」
何故かもうシュウさんを止める気が無くなっていた。
いや、気力が無くなったのか・・・。
しばらくするとジルを後ろに従えたシュウさんがリビングに配信準備が整ったと伝えに来た。
「配信っても、ゲリラだから30分くらいで良いよね?」
「はい」
「って、僕達は何喋れば良いんですか?」
「適当に振ってくから心配しないで」
「分かりました」
「あ、そうそう」
「はい」
「ジルの事は内緒ね?」
「え?そうなんですか?」
「ほら、だって、私の名前って兎合シュウじゃない?」
「はい」
「兎以外飼えなくない?」
「いや、そんな事気にします?」
「気にするよー。絶対ツッコまれるでしょ?」
「まぁ・・・ツッコミはするかな。リスナーだったら」
「ほらぁ」
そんな事気にしてたのか。
いや、僕と違って皆は設定とか大事にしているのかもしれない。
僕が気にしなさすぎなのかもしれないけど・・・。




