46話 関西ではワクド
ヘラ伊達さんとの対決を控え、憂鬱な気持ちのまま教室に入った。
「はよーっ」
すると、ポケットの中のスマホが震えた。
席に着きスマホを見るとLIMEの通知だった。
「おはよう」
それは伊達さんからのメッセージで、周りから注目されない為の対策だろう。
「おはよう」
「兎合シュウとやるコラボっていつ?」
いきなり来たな。
「まだ未定。向こうからの連絡待ち」
「じゃあさ、今日コラボしようよ」
「え?今日?」
「うん!」
「今日はバイトだから無理かな・・・」
「あ、そっか。明日やろっ!」
「そんな急に・・・コラボってやりたい企画ありきじゃないの?」
「あきなちゅとコラボする。それが企画」
よくそんなんで人気出たな・・・。
「昨日だって急にやって出来たんだから良いでしょ?」
「それはそうだけど・・・」
「出演料も出すよ!」
「え?」
「5万!」
「えっ!?」
マジで・・・?
「出てくれる?」
「いや、ちょっと待って」
「うん?」
「コラボの出演料って本当にあるんだ?」
「どうなんだろ?」
「ん?」
「私は払った事も貰った事も無い」
「なんでっ」
「今までのもやっぱ払うべきだった?」
「違う違うそうじゃ、そうじゃない」
「なにが?」
「だったら僕も貰えないよ」
「むしろ払わせて欲しい!」
「はい?」
「それで、兎合シュウからは貰わないで」
「え?」
「あ、兎合シュウの分も私が払う!」
「ちょ、待って。落ち着いてっ」
「落ち着いてるよ?」
深呼吸、深呼吸。
僕も落ち着かないと・・・。
「出演料を払う慣習が無いなら僕も貰えない」
「えー」
「だから、先になると思うけど」
「うん」
「僕の枠の方でもコラボして欲しいかな」
「え?いいの?」
「うん、是非お願いします」
「はーい」
「だから、出演料はナシね?」
「分かったー」
よぉし・・・なんとか話が纏まった・・・。
そして、タイミング良くチャイムが鳴り先生が教室に入って来てLIMEのやり取りも終わった。
と、思って居たけど・・・授業の合間合間にLIMEが着てやろうと思っていたソシャゲのデイリー周回が手つかずのままだ・・・。
「バイトまでの時間、またワックで話さない?」
「あー、うん、いいよ」
デイリーも消化出来無いまま放課後になり、ワクドナルドで拘束されていた。
「ねぇ」
「うん?」
「あれ、田中くんじゃない?」
「どれ?」
「あの窓際の」
「あ、本当だ」
「向かいの人って彼女かな?」
彼女というにはちょっと年上な大人の女性って感じだけど、イケメンだとそういう事もあるのかもしれない。
「かな?」
「ほら!やっぱりそうだよ!田中くんが頭撫でられてるし」
「いや、振り払ってるよ?」
「でも、付き合ってなかったらあんな事しなくない?」
「うーん・・・」
付き合ってるっていうよりも姉弟って雰囲気の方が強いかもしれない。
ガン見していたのが良くなかった。
田中君と目が合ってしまった。
「「あ・・・」」
「石神っ・・・と伊達さん?」
「あ・・・」
「山田が言ってたけど、ホントに2人って付き合ってたんだな」
「ちがっ」
KY山田め・・・。
「友達?」
と、田中君の連れのお姉さんも会話に加わって来た。
「同級生」
「へー、たっくんの従姉弟の田中秋乃です」
「ちょ、シュウちゃ・・・秋乃さんそういうのいいからっ」
「シュウちゃんって呼んでいいのにー」
「やだよ・・・」
「昔はシュウちゃんシュウちゃんって私に付いて来て可愛かったのに」
「マジで勘弁してよ・・・」
「あれ?もしかして・・・兎合シュウさん・・・?」
どこかで聞いた事のある声だと思ったけど、シュウって名前を聞いて合致してしまった。
「えっ・・・な、なんの事かなー?私はそんなVtuber知らないしー配信なんてした事無いから分からないなー」
「いや、その言い訳こそ証拠でしょっ」
「な、な、なんの事かなー・・・?」
「Vtuberって言って無いのにボロ出過ぎでしょ・・・」
「ううっ・・・」
「誰にも言わないから安心して下さい」
「ほ、本当・・・?」
「本当です」
スマホを手に取り、ディスコを開き、シュウさんにディスコを送った。
「スマホ鳴ってますよ?」
「えっ?」
「どうぞ」
「う、うん・・・ええーーーーーー!!!」
「ちょっ・・・」
「石神っ、お前シュウちゃんに何したんだよっ!」
「たっくん・・・」
「な、なに?」
「今日はもう帰って」
「へ?」
「相談はまた今度乗るから」
「え、いや、なにが・・・?」
「いいから!用事出来たのっ」
「え、うん・・・石神、お前も来いよ」
「え?」
「石神君に話があるからたっくんだけ帰って」
「えぇ~・・・」
帰り際に一睨みされ、見送った後ろ姿にはイケメンさは一切無かった。




