43話 カミングアウト
「ビックリした?」
「ビックリしましたよ・・・」
そりゃ、人気Vtuberがクラスメイトだったらビックリする。
とは言え、こっちにも爆弾はある。
そっくりそのまま返せる訳だから、僕が石神望だと伝えれば・・・いや、怖いな・・・。
めるとみたいにフリーズして、その後は目も合わせてくれないくらいなら良いけど・・・向こうは人気Vtuber、こっちは吹けば飛ぶような泡沫Vtuber。
嫌な考え方かもしれないけど、向こうがその気になれば簡単に消される様なパワーバランスだから・・・。
でも、どんな反応をするのか気になるのも事実。
「ふふふ」
「僕からもサプライズがあるんだけど良いかな?」
「え?なになに?」
「伊達ごっこさんの本名って伊達依知子さんだよね」
反応が無い。
「伊達さん?」
「なんで知ってるの?」
「僕の本名を教えたら分かると思うけど」
「だれ?」
「石神望」
しばらく待ったけど再び反応が無くなった。
「伊達さん?」
やっぱり反応が無い。
「ちょっと離席します」
流石にずっと待っている訳にもいかないので、一旦お風呂に入ってこよう。
そして、お風呂上がりにも寝る前にもディスコを覗いたが伊達さんからのリアクションは一切無かった。
翌日、学校で顔を合わせるんだからそこで謝れば良いと思ったが伊達さんは翌日学校を休んだ。
学校が終わりバイトに行き、家に帰ってからまたディスコで呼びかけてみたがやっぱり伊達さんからの返信は無かった。
めるとに続いて伊達さんまで・・・。
やっぱり言わない方が良かったのだろうか?
でも、僕が春夏冬中なのは事実だし、僕だけが一方的に秘密を知ってしまっていたから明かしたんだけど・・・。
この罪悪感はそこに面白さを感じて明かしたからかもしれない。
「ホントに石神くんなの?」
突然、伊達さんとのディスコに動きがあった。
「うん、ごめん」
「なんで謝るの」
「いや、言わない方が良かったかな?って」
「気にしないで。気持ちの整理ついたから」
気持ちの整理・・・。
「あきなちゅはあきなちゅ。石神くんは石神くん」
うん?
「別人だと思う事にしたから」
そう来たか!
「これからはやって欲しい企画とか直接言うからよろしくね!」
「えっ」
「それと、コラボもよろしくー」
「えっ」
「都合の良い日、いくつか候補貰えたら後はこっちで調整するから」
「え、うん」
「ゲームとかも私が決めて良いよね?」
「え、うん」
「それじゃ、また明日学校で!」
「え、うん、また明日」
伊達さんの急な方向転換に依り・・・罪悪感やら困惑やら混乱やらパニックやら・・・って一緒か。
頭の中がゴチャゴチャになって今自分がどんな感情なのかすらよく分からない。
こういう時は・・・寝るっ。
翌朝、トイレに行き、顔を洗い、歯を磨き、朝ごはんを食べた。ここまでは良かったんだけど、制服に着替えている時に昨日の事を思い出して頭を抱えた。
とは言え、そんな理由で学校を休む訳にもいかないので渋々学校へと向かった。
ガラガラ───。
「はよーっ」
「石神くんっ」
「あ、伊達さんおはよう」
「おはよう!」
元気だな・・・。
「私ね!考えて来たの!!」
「え、ちょ・・・伊達さん声が大きい・・・」
まだ疎らな登校済みのクラスメイト達の視線が一気に集まった。
「あ、ごめっ・・・」
「まだ時間あるから屋上に行こっか」
「うん」
好奇の目に見送られ2人で恒例の屋上にやって来た。
「あのねっ!あのねっ!考えたんだけど!!」
「あ、うん、ちょっと待って・・・」
「え?なんで?」
「いや、ちょっと・・・」
僕は踵を返し屋上のドアへと手を伸ばした。
「やべっ、バレた。逃げろっ!」
「きゃー」
まぁ、あれだけ教室で派手にやったんだから誰か見に来てるかもしれないと思ったけど・・・。
多分、あの場に居たほぼ全員が覗きに来ていたっぽい。
声的にKY山田を筆頭に渡辺さんとかも居たっぽい。
「はぁ~」
どうしたものか・・・。
「え?皆、来てたの・・・?」
「っぽい」
「じゃあ・・・屋上でも話せない?」
「今日は無理だろうね」
「んー、じゃあLIME交換しよ」
「へっ?」
なにが「じゃあ」なのかは分からないけど・・・。
「別に良いけど・・・」
「やったっ」
伊達さんとLIMEの交換をした。
別にディスコでも良い気がするんだけど、何が違うんだろうか。
ただ・・・交換した後にふと見えた僕の名前は「あきなちゅのマネさん」で登録されていた。




