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三十九話 お見舞い

あれから何時間経ったんだろう。


まなは、ただひたすら窓の外を見続けていた。


「まな、俺はずっとそばにいるよ」


はたから見ればただの安っぽい言葉だけど、俺にはこれしか言うことができない。

それが俺にできる最大限の安心してもらうための言葉で、あとはもう行動で示すしかない。


「天心さん、失礼しますね」


どうやら看護師さんが見回りにきたようだ。


「もうずっとそうしてますけど大丈夫ですか? 日も暮れて来ましたが」


どうやら、見回りではなく俺が心配で来てくれたらしい。


時計をみるとすでに午後の五時を過ぎていて、心配になるのも納得である。


「奥さんは私が見ておくので、天心さんは何か食べてきてください。今朝から何も食べていないでしょ?」


「いえ、いいんです。俺はまなのそばを離れないって約束しましたから。まながこんなに大変なときに、俺がそばから離れるわけにはいかないんです」


「どうせそんなことになると思ったよ」


「え?」


聞き覚えのある声がきこえた。


「まなみん大丈夫?」


「見舞いと、お前はどうせそうなると思ってたから軽食買ってきたぞ」


部屋の入口に亮太と新村さんが立っている。


「お前、なんて顔してんだよ。真っ青だし、目も死んじゃってるぞ。お前がそんなんだったらまなさんが治るわけ無いだろ? だから、とりあえず食え」


そう言って亮太が差し出してきた袋の中には、おにぎりと飲み物、りんごが入っている。


「りんごはまなみんにあげてね。私が買ってきたの」


「そうか・・・。ありがとう」


「それで。なんでこんなことになってるんだ?」


「私がまなみんについておくから、二人はどっかではなしておいで。看護師さんも、私が空くんの代わりに見ておくので大丈夫ですよ」


「あ、でも俺が・・・・・・」


「いーから! 空くんが元気になってくれないとまなみんが一番悲しむでしょ! ほら、早くいきなさい」


そのまま俺は亮太に部屋から引っ張り出されて、病院の食堂に連れて行かれた。


「さて、もう一回聞くけど、なんでこんなことになってんだ?」


俺は、全て話した。まなの両親のことや、そのせいでまなの記憶が改ざんされたこと、全て。


「そっか。まなさんにそんな過去があったなんて」


「もしかしたら、まなはもう心が壊れきってるのかもしれない。もしそうだったら、俺は・・・・・・」


「お前がそんなに弱気でどうすんだよ。それに、お前のそのみっともない顔! そんなのが隣にいたってなんにも変わらないんだから、お前だけでもまずは元気になれ! そんで、お前の元気をまなさんに分けてやりゃいんだよ。大丈夫、とかそんな安易なことはいっちゃいけないかもしれないけどさ、俺は大丈夫だと思ってる。きっともとのまなさんに戻ってくれるから。それまでお前は元気にまなさんを待ち続けろ。いいな? お前が辛いのはわかってるから、俺もお前の隣にいてやるから。俺らは親友なんだからさ」


心が温かい。


亮太の言葉で空は緊張の糸が切れて、泣き出した。


男とは思えないほどの大号泣。


だけど亮太はそれをただ見守り続けていた。


どれほど時間が経ったかわからない。

体感ではとてつもなく長かったが実際はそんなことはないのかもしれない。


「少し楽になったよ。ありがとう」


「いいんだよ。それじゃあ病室に戻るか」


部屋に戻ると、まなは新村さんにりんごを食べさせてもらっていた。


「あ、おかえり。まなみんもお腹は空いてたみたい。りんごの皮向いてたら、反応してくれて、少しずつ食べてるよ」


「そうか。ありがとうな、来てくれて助かった」


「いいよいいよ、そんなお礼。私は来たくて来たんだから。空くん、ちょっとは元気が出たみたいだね。よかった」


「そーだな。もうあんな面見たくねーから、そのまま元気になってくれよ」


「なんだそれ。俺、そんなにひどかったか?」


「それはもう、死んだ魚よりひどい顔だった」


二人はきっと俺を元気づけようとしてくれている。


ああ、いい友達をもったな。


まなにも届いてるかな。二人が心配してくれているぞ。


「それじゃ、私達は帰るね。空くん、ちゃんと自分のことも考えてね」


「うん。ふたりとも今日はありがとう。まなが元気になったら、また一緒にご飯でもたべよう」


「そうだな。まあ、俺達はゆっくり待ってるよ。それじゃあな」


「またね、まなみんも」


そうして二人は帰っていった。


まなはりんごを食べ終わってから、ぐっすり眠っている。


「まな、ゆっくり休んでね」


空は、まなの横に座って、また手を握る。


そして、一日の疲れが押し寄せてきて、そのまま眠りに落ちていった。

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