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第9話




客間に入るとロイストンとクロヴィスが並んで座っていた。


「お待たせいたしましたわ。」

「いや。お招き有難う。」


ロイストンは満面の笑みだった。

私の記憶の彼、こんな陽気だったかなあ。

眩しい笑顔に反して、頭を抱えそうになる。


「セシリアも久しぶり。相変わらず可愛いね。」


ロイストンがにっこり笑うとセシリアは顔を真っ赤にした。


「お招き感謝する。」と、ロイストンの横でクロヴィスが座ったまま少し頭を下げた。


子供の頃も二人は必ず一緒に我が家に来ていたので、さすがにクロヴィスを呼ばないのは失礼にあたると思い、返事の手紙に「良ければクロヴィス様もご一緒に」と添えたのだ。


私が「先日ぶりね。」と軽く挨拶をして腰をかける横で、セシリアが深く一礼をした。


「ロイストン様もクロヴィス様もご無沙汰しております。お会いできて大変嬉しいですわ。」

「有難う。僕たちも嬉しいよ。」


ロイストンとクロヴィスは微笑んで、セシリアも「失礼します。」と腰をかけた。


「本当はもっと早く会いたかったんだけど、中等部の寮に入ってからなかなか家に帰れていなくてね。大学進学後も領地の視察などが重なって今になってしまったんだ。」

「いえ、お手紙をもらえて私もセシリアも喜んでいたのよ。私たちから手紙を出せなかったものですし...。」

「あの、お二人は今大学に?」


セシリアは不思議そうに首を傾けた。


「ああ、飛び級で昨年大学に入ったんだ。」

「そうだったのですね!」


セシリアは目を輝かせた。


「ふふ、クロヴィスも丸くなっただろ?以前はよくルシアを乗馬や剣術に引っ張っていったのに。」


ロイストンはくくくっとお腹を抱えて笑い、その様子を隣で見るクロヴィスは「何年前の話をしてるんだ。」と呆れていた。


「そういえば、先日ルシアお姉様からクロヴィス様と踊られたとお聞きしました。お二人の様子、是非拝見したかったですわ。」

「ああ、とても注目の的だったよ。また今度、セシリアも見れるといいね。」


ロイストンは悪びれもなく微笑んだ。

わたしたちが注目の的だったと気づいているということは、分かっていてダンスに薦めたのだろう。


「旧友と踊れたことは嬉しいけれど、注目を集めるとは思ってもいなかったわ。どういう意図があって薦めたの、ロイストン。」


少し問い詰めるように凄んだ。

クロヴィスはあまり気にしていないようでお茶を口にした。


「ああ、気に障ったなら謝罪するよ。実はオレリアン公爵と公爵婦人に頼まれていて...。」


オレリアンはクロヴィスの名だ。つまり、クロヴィスのご両親からのお願いを意味するのだろう。


「クロヴィスは社交会であまりにダンスを受けることが少なく、女性に気がないんじゃないかと噂されてたんだよ。

見かねた公爵と婦人から、ダンスを勧めてやってくれ、と。」


クロヴィスはロイストンの顔を見ながら苦い顔をした。

クロヴィスもこの話は知らなかったのだろう。


「そんなこと頼まれていたのか。」

「ああ、僕の姉や身内と踊ることはあったけど、僕の知り合いのご令嬢を紹介しても平気で断るからな。

ようやくルシアと踊ってくれて肩の荷が降りたよ。」

「何故お断りを?」


クロヴィスは少し言葉を詰まらせた。


「...もともとご令嬢と友好が広くもないんだが、その...踊るたびに婚約の話で流石に気が滅入るんだ。」


クロヴィスは深いため息をついた。

18の歳となると、婚約が決まってる者も多いので決して珍しい話ではない。特に、容姿端麗、王族の縁者やその関係者となればご令嬢は放っておかないだろう。


ロイストンも「まあ、その気持ちも分かるけどね。」と笑った。


「私も理解せずにお誘いして申し訳なかったのだけれど、私が婚約者なのではないかと噂が広がるのでは?」

「なるほど!」


なるほど?


「ルシア、婚約者は?」

「いえ...居ないけれど。」

「ならルシアに恋人のふりをしてもらえば?」


ロイストンはクロヴィスに問いかけた。

クロヴィスと私は、ロイストンが何を言っているのか理解できなかった。


「恋人のふり?ですか?」


私が言葉を失い、クロヴィスが呆れていると、セシリアが先に口を開いた。


「そうそう。ほら社交界に出てもご令嬢からのご挨拶やダンスの申し出をいつも邪険にしているし、そろそろ体裁が悪くなる懸念も出てくるだろう。

恋人や婚約者がいれば解決するわけだし、ルシアさえ良いならしばらくの間、ふりをしてもらうのはどうかと思って。」


ロイストンはにっこりと微笑んだ。


「オレリアン公爵と夫人もご安心するだろうからなあ。」と言って、ロイストンは紅茶を口に運んだ。




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