第5話
コンコン
少し暑い日、部屋にノックの音が響いた。
「どうぞ」と声をかけるとゆっくりと扉が開き、長い髪をなびかせてセシリアが入ってきた。
「失礼致します、ルシアお姉様。」
セシリアは新調した細かなレース刺繍が施された淡い水色のドレスを見にまとい、スカートを広げた。
「素敵ね。よく似合っているわ。」
「いえ、そんな、ルシアお姉様の方が素敵です。
それにお姉様のご卒業式なのに、私まで素敵なドレスをご用意いただいて...有難うございます。」
今日は私の高等部の卒業式だ。
式典は家族の出席が認められており、大勢の人が集まるので服装は整えなければならない決まりなのだ。
「気にしないで。それより、式典の出席に予定を調整してくれたのでしょ。申し訳なかったわ。」
「いえ、大した用事ではなかったのでお気になさらないでください。」
セシリアは今日王都で友人とお買い物の予定だったらしく、先方は快く日程を変えてくださったそうだった。
「ルシアお姉様は首席でのご卒業だとお聞きいたしました。私もルシアお姉様のように...」
「セシリア、有難う。でも成績が良いことは良いことばかりではないよ。セシリアにはセシリアの良いところがあるのだから、学生の間は羽を伸ばして過ごしなさい。」
「遮ってごめんね。」と言うと、セシリアは少し困ったように「いいえ」と返した。
私は幼少期から男児として育てられ、初等学校に通えなかったこともあり、教養などは早いうちから教え込まれた。
また、私自身も幼少期の勉学への姿勢が抜けず、学校に入ってからもあまり羽を伸ばすことなく勉学に励んだのだ。
特に学校の成績はその後の将来に影響しやすく、同級生の令息たちには、なぜ公爵家の令嬢がそこまで勉学に励むのかと冷ややかな視線を送られることも少なくなかった。
セシリアには私のようにはなって欲しくないのが本音だ。可愛い令嬢のまま、素敵な男性と結婚できれば、公爵家の令嬢としてそれ以上の幸せはないのだから...。
「そういえばロイストン様からお姉様宛に、卒業祝いのメッセージが届いておりましたよ。」
「ロイストンか、久しいね。」
セシリアがメッセージカードを渡してくれた。
そのメッセージカードには見慣れない字で「近いうちご挨拶に伺います。」と綴られていた。
クロヴィスとロイストンは中等部に入学して以来、会うことはなかった。2人ともイルミナートの寮に入ると言っていたし、多忙なのだろう。
王族貴族の繋がりの貴族となると、ロワイエ公爵家からは挨拶に行きにくいなと考えていたので、ロイストンからの手紙は有難かった。
「いつが良いかな...また帰ってから返事を書くよ。ありがとう。」
セシリアが何か言いたそうにしていた。
「あぁ、後でセシリアの都合いい日も教えてくれると助かるよ。」
「いえ、あの、...はい。ありがとうございます。あの...、クロヴィス様もいらっしゃいますでしょうか。」
「クロヴィス?」
セシリアは小さな頃からロイストンを慕っていたから、自分も会いたいと言いにくいのかと思ったけれど、クロヴィスを気にしていたようだった。
「どうだろう、メッセージにクロヴィスのことは書いてないけど。」
「そう、ですか。ルシアお姉様が昔と違うので、その...クロヴィス様は驚かれるのではないかと。」
それもそうか。
幼少期は髪も短くズボンを履いていたわけだし、あの頃から6年は経っているから少し驚くかもしれないけれど...。
でもロイストンも同じ期間あっていないわけだし、そもそもクロヴィスもロイストンも青年になっているから、容姿は変わってると思うんだけどな。
「まあ、大丈夫じゃないかな。きっと2人も背は高くなってるだろうし。」
「そう...でしょうか。いずれしても、お二人とお会いできるの楽しみですね。」
私が「また新しいドレスが必要だね。」と冗談を言うと、セシリアは頬を赤くした。
この様子だとセシリアは今もロイストンを想っているように見受けられる。6年会っていなくても気持ちは健全か...。セシリアは一途だな。
念のため、ロワイエ公爵家の令嬢とロイストンが結婚できるか、折を見て確認しよう。
「そういえば、今日は先に家を出るから、後からお父様と来てもらえるかな。色々準備があるらしくて、呼ばれてるんだ。」
「分かりました。お父様にもお伝えしておきます。今晩の王都で行われる卒業パーティーにはご出席されますよね?」
王都の卒業パーティーか...。
イルミナートを含む、王都近くの高等学校卒業者の中から優秀な成績や記録を残した者だけが招待される卒業パーティーのひとつだ。
王都の卒業パーティーは、王族や上流階級の貴族が多い。さらに、招待される優秀な生徒の多くは男性であまり参加に前向きではない。
ただ、招待は国王から出されるもので、招待されたものは出席しなければならないのだ。
「有難いことにご招待いただいたからね。帰りは遅くならないよう気をつけるよ。」
「はい、わかりました。では、私は準備がございますので、こちらで失礼致しますね。」
「うん、ありがとう。また後ほど、式場で。」
セシリアは一礼して部屋を後にした。




