第10話
ロイストンはティーカップを置くと「まあ、ルシアが良ければだけどね。」と笑った。
私が良ければ?
「クロヴィスの意見も聞くべきでは?」
ロイストンはクロヴィスの顔を見ると、クロヴィスはゆっくりと口を開いた。
「実は両親に会ってほしいと言われているご令嬢がいるんだが、相手が相手なだけに縁談まで話が進むと断るのが難しい。
今は結婚は考えていないし、可能であれば角が立たない形で回避したいと願っているのは確かだ...。」
オレリアン公爵家の財政が傾いているという話は聞かない。そうなるとオレリアン公爵家への直接的な財政的支援での縁談ではないだろう。
つまりどちらかというと...王族に近い、もしくは縁者の縁談。
縁談を進める前、つまり今の段階であればまだ話を無かったことにできる算段なのだろう。
だが、私がクロヴィスの恋人役をするには少し気が重い。
「友人を助けたい気持ちはあるけれど、私のメリットが見当たらないし、上手くやれる自信もないわ...。」
「メリットならルシアにもあるはずだよ。
クロヴィスの恋人となれば、縁談もお誘いもしばらくはないだろうからね。
望むなら可能な限り力も貸すよ。」
ロイストンはにっこり笑った。
クロヴィスにその様子はないが、ロイストンが流暢に理由を話すところを見るに、ロイストンは元々この話をするつもりで来たのだろう。
クロヴィスの縁談の話から公爵家ご夫妻の口添えとも考えにくいが、今日はロイストンから理由を聞けないだろうから、後日聞き出すとしよう。
「...幼少期よく遊んでたとはいえ、突然恋人だというのは不自然では?」
「僕の知ってる中で、クロヴィスと一番仲がいいのはルシアだから、その点は気にしなくて良い気もするけれど。ルシアは久しぶりの再会で恋に落ちたことにでもすればいいさ。」
質問を投げても間髪入れずロイストンが答える。
「...この情報は限られた人間だけが知っているべきだと思うけれど、セシリアが聞いてしまっていることは問題ないと?」
「僕としては小さい頃から4人で遊んだ仲だし、ルシアが可愛い妹にこの事情を伝えない状況が辛いかと思って。それに、セシリアは口が硬いから。」
ロイストンはにっこり笑った。
セシリアは心配そうに私の顔を伺った。
「...失礼を承知で質問をするけれど、オレリアン公爵家の18歳の子息に恋人がいたとして、公爵家としてどれくらいの問題になる可能性があるものかしら。」
公爵家の子息であれば、18歳で婚約者がいることが一般的だ。恋人がいること自体は珍しくもないが、その場合の多くは両家の同意があり、時に結婚前提のお付き合いとなる。要は、付き合っている場合でも公爵家によっては政治的な意味を含む場合があるのだ。
私としては、私が恋人役になったとして、オレリアン公爵家としてどのくらい問題になるのかリスクは知っておきたいのだ。
「公爵家としては問題ない。跡を継ぐ兄はいるし、両親が婚約を計らうのは俺が女性に気がないからだと心配してのことだ。これで答えになってるか?」
クロヴィスは答えた。
理解はした。恋人役が出来れば、ご両親の配慮も回避できるとなれば理に適った話だと思う。
「よくわかったわ。ありがとう。」
普通であれば、二つ返事できるような話ではない。
小さい頃に交流があったと言えど、私はオレリアン公爵家にご挨拶したこともない。
もちろん、私の父も、クロヴィスとは幼少期に数えるほどしか会ったことがない。
「では、この話お受けします。」
「本当に良いのか?」
「ええ、ただお互い希望もあるだろうから条件は揃えましょう。」
書面で契約書を交わすわけにはいかないため、ロイストンとセシリアを立会人としていくつか条件を整理した。
「条件は変えたくなることもあるでしょうから、適宜相談していきましょう。」
「ああ、それで問題ない。それから、良ければ今度王都へ出かけたいんだが、時間を作ってもらえるだろうか。」
「王都へ?ええ、日時を教えてもらえれば空けとくようにするわ。」
話に区切りがついてお茶を口にした。
「久しぶりに会ったのに楽しいお茶会にならず申し訳なかったね。セシリアはつまらなかったよね。良ければ今度詫びさせてもらうよ。」
ロイストンが申し訳なさそうに笑った。
「え!いえ、そんな...。
その、先日お二人とお姉様がお会いしたとお聞きして本当に嬉しかったんです。私、小さい頃に友人があまり居なくて...私にとってお二人は大切なご友人なので...。」
セシリアは頬を赤くして微笑んだ。




