第70話
モールの各オーナーたちは、アレキサンダーを取り囲んだ!絶体絶命のアレキサンダーだった!
アレキサンダーは、いつも通りのポーズで「ホイー!!!」をキメた!
アレキサンダーは、特に、うれしい時、仕切り直す時、やる気のある時、得意の『ホイー!!!』をキメる癖があった。しかし、この時ばかりは、窮地に立っていたので、このポーズとキメ言葉の『ホイー!!!』で、逃げ切れると判断した。そして、次に、こうなることを予測して、言い訳も用意していた。
フェリックスは、アレキサンダーに「この前、なぜ、アレキサンドリアと偽りの名前を騙ったんだ!?」
アレキサンダーは「それには、事情があるんだ!」
フェリックスの質問は、想定内だった。
シャーロットは「一体、なんなのよ!」
アレキサンダーは「あの時、ワシは、即興で思いついたんだ!アレキサンドリアと名乗って、依頼主のマルゲリータのところに行くのも悪くないと即興で思い立ったんだ!ワシのためではなく、アレキサンドリアがいなくなって、悲しんでいるマルゲリータの心を癒せるのは、ワシの使命だと悟ったんだ!死んだアレキサンドリアの後釜に、なろうと思ったんだ!懸賞金は、あなたたちがもらって、ワシは、あなたたちのために、喜んで、人身御供になることを選んだんだ!苦渋の選択だったんだ!」
ヘルムートは「ホントかよ?もしかしたら、都合のいいように、勝手にアレキサンドリアを死んだ設定にしたんだな。」
ルイーゼは「優しいところもあるのね。」
クマタンは「怪しいもんだ!みんな!騙されるな!」
アレキサンダーは「こう見えて、ワシは、いろいろ経験してきたんだ!ある時は、盲導犬だ。乗合馬車に、ご主人と誘導のために乗り込んだワシは、ご主人の横に、おっちゃんこ(座ること)しているのを他の乗客が見て、“まあ、偉いワンちゃんね!”とか褒められたもんだ!」
続けて「また騎士団犬。この時は、ナイフを持った犯人に、ワシは、勇敢にも、立ち向かい、犯人の腕を嚙んで、ナイフを落とさせて、犯人逮捕に結びついたんだ!いやぁ~、この時は、我ながら、勇敢だったなあ!」
続けて「またある時は、救助犬。災害のあった場所に赴任した!どこかに生存者がいないか、探し当てる作業だ!いやぁ~、この時は、正直、ビビったよ!初めは、小心者のワシは、足が震えてね。救助に、行こうと思うが、足がすくんで動けない!救助の人が“アレキサンダー!行くんだ!”そう励まされ、背中を押されたんだ!ワシは、必死に、家の残骸の中で、救助を待っている人を探しまくったんだ!とうとう見つけた!“ワンワンワンワン、人がいるぞ!”と救助の人を呼んだ!その人は、“アレキサンダー!よくやった!もう、怖がっているアレキサンダーじゃないな!”と褒めたんだ!いやぁ~、その時は、実にうれしかったね~!」
みんな、しらけていた。
クマタンは「普通、盲導犬は、ラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバーで、騎士団犬は、シェパードやドーベルマン、じゃないのか?救助犬は、いろいろあるけどね。チワワ犬は、圏外だ!」続けて「お前!よくそんな絵空事が、ペラペラペラと言えるな!」
アレキサンダーは「へぇー。そうなんだ!知らなかったなあ。」
コウガは「ところで、アレキサンダーに、質問だ!それなら、なんで、今、本屋で飼われてるんだ?」
コウガの質問は、もっともで、鋭い質問だった。
アレキサンダーは「それはだな、本屋のおじいが、是非とも、ワシに来てほしいと泣いて、頼まれたから、仕方なく、飼われてやったんだ!他にも、飼いたいと数人現れて、引く手あまたで、迷ってしまったよ!ワシは、こう見えて、博愛主義者なんで、困ったよ!結局、断り切れなくて、本屋になったんだよ!あ~!人気者は、つらいよ!」
コウガは「っていうか、その語りもスゲー噓くさいな!」
クマタンは「ふ~~~ん。物も言いようだな!」
オーナーたちも、アレキサンダーをかなり白い目で見ていた。
アレキサンダーは「みんな!継子いじめするような目で見ないでおくれ!」
次に、アレキサンダーは、泣き出した。「皆さんやマルゲリータを助けようと、思っただけなんだ!これからのワシを見てほしい!皆さんの応援が必要なんです!今日、ここに来たのも、ワシは、皆さんと、お友達だから来たんです!酷い目に合わされるはずもないと確信しているからこそ、ここに来れたんです!」
クマタンは「お前だけが、友達だと思っているだけで、みんな、何とも思っていないぞ!」
オーナーたちは、皆さんのためにしたというのも鵜吞みにしなかった。しかし、口から出まかせのアレキサンダーなど、ばかばかしくて、相手にしていられないと判断して、解散した。
アレキサンダーは、この日も、ハンバーガーのセットを注文をして、一口食べると「まあまあだな!うまないなあ!やる気あんの?ふざけてんの?」と誰も聞いていないのに、独り言を発し、文句を言いながら、顔は、うまそうな顔をして、完食して、帰って行った。
言いたい放題のアレキサンダーだった!




