第121話
しばらくして、足音高く、走りながら、ラオドールとメイド1人が部屋に入ってきた。
ラオドールは「旦那様、悲鳴が聞こえたのですが、どうかされましたか?私どもは、奥様とお嬢様をおまもりしていました。お2人共、ご無事です。今、メイド2人が、一緒に居て、お護りしています。」
いつの間にか、カーテンから、出てきたヒルデグランドは「2人共、無事だったか!よかった!よかった!追い払えてよかった!ここにいるシャーロットの助けがあってよかった!」
ラオドールは「さすが、旦那様ですね!ようございました!」
オーナーたちは、シャーロットの手柄を若干、ヒルデグランドがちょい盗みしたが、相手が魔王なので、黙っていた。
アレキサンダーは“フン!ヒルデグランドのやつ、いいとこ取りしたな!嫁さんに尻に敷かれている旦那の身分としては、こう筋書きでないとうまくいかないわな。しかし、また幽霊が出たら、どう、対処するんだ?また、ワシらを呼ぶのか?うまくいったら、さっきの幽霊をシャーロットに捕まえさせて、売るという手も残っている。待てよ、1体とは限らない。何体か、複数居たら、結構、儲かるかもな。”
アレキサンダーは、いい金儲けだと胸算用することに余念がなかった。
ヒルデグランドは、部屋を出ていくと、真っ先に、ジェニーとレティシアの元に走っていった。
オーナーたちは、さっきの騒ぎで、まだ、部屋で、驚きを隠せないようだった。
アレキサンダーは、その部屋を出ていった。魔王城に入り込むため、下調べをしようと思った。この状況下でも、欲どおしさは、変わらなかった。幽霊さえ、何とかすれば、自分の思い通りになるかと思ったからだ。
部屋を出ると、赤い絨毯が続いている。ある部屋のドアが開いていた。ヒルデグランドとジェニーとレティシアが居て、無事だったので、泣いて喜んでいた。それを部屋の外で、白い布をまとった幽霊が見ていた。その幽霊はさっきの男で、アレキサンダーを見た。
「見たな。」とアレキサンダーを恨めしそうに見て言うと
アレキサンダーは「ひええええええええ!!!助けてえええええ!!!ワシは、たまたま、この近くを通った通りすがりの旅人です!いいえ、何も邪魔したり、悪いことをするつもりもありません!見逃してください!聡明なあなたなら、そうするはずです!」と言いながら、全身の毛が逆立っていた。
次に、アレキサンダーは「ワシは、怪しい者ではない!真面目に生きてるのに、ワシを嫌いなやつが勝手に悪者扱いしているだけだ!真面目なワシを見逃しておくれ!」
最後には、アレキサンダーは、ひざまずいて、命乞いを懇願した。
男は「私は、オーガスティンといいます。ジェニーの死んだ夫で、レティシアの父親です。ヒルデグランドさんには、よくしてもらって嬉しいのですが、伝えられなくて、このような状況になってしまいました。あなたから、私のことを伝えてください。」
アレキサンダーは「へえええ!?あんた、ジェニファーの元おっさんか?」
オーガスティンは「はい。馬車にはねられて、死んだんです。死ぬ瀬戸際、どれだけ、家内や娘に会いたかったことか・・・。」
アレキサンダーは「そうだったんだ!じゃあ、母娘が心配だったんだな。普通に暮らせれば、いいんだな。そうだよな。あんな、魔王なんて、いらないよな。でも、ここより、居心地の良い普通の場所で、3人で、ほどほど暮らせたら、いいわな。この屋敷のある程度の財産で、まかなえれるだろう。」
アレキサンダーは、この幽霊を使って、この城の先住たちを追い出し、自分が当主になるのもいいかと企んだ。
オーガスティンは恐ろしい形相になり「家内と娘の幸せを壊すやつは、タダじゃおかねえ!全力で阻止する!」
オーガスティンの宣言を聞くなり、アレキサンダーは「そりゃ・・・、そう思いますわな。」
アレキサンダーは、冷や汗をかきながら、オーガスティンに同意するように、うなずいた。
オーガスティンは「では、もう会うこともないでしょう。では、私は、消えます。」
このことをみんなに伝えて、アレキサンダーは、ヒルデグランドから感謝された。
アレキサンダーは、魔王城を乗っ取ろうとする野望は、とりあえず、やめた。
ヒルデグランドは、コウガやオーナーたちに、軽く礼を言うと、みんなを魔王城から元居たモールの外に戻した。