第104話
カウンターに居たフローラは「ああっ!アレキサンダー!」
アレキサンダーは「なんだ?客に向かって、偉そうに言いやがって!なんたる言いぐさだ!ワシがだな、こんな態度の店員がいるって噂をばらまいたら、大変ですぜ!」
フローラは「なによ!あんたこそ、その態度、なんなの!本屋の店員じゃない!配達をサボっているのを本屋のおじいに言っても、いいのかしら?」
アレキサンダーは「なんだと!?このワシに対して、失礼過ぎるじゃないか!お嬢さんよ!」
フローラは「あんた!けなしてるのか、ケンカ売ってるのか、そのくせ、お嬢さんだとか、ちょっとだけ褒めたり、変なやつね!」
アレキサンダーは「いけませんかね~?これが、ワシというものだ!天気が変えられないのと同じで、ワシを変えようなどという不届き者は、許せねえんだよな!」
フローラは「あんた、この前、馬車にひかれなくて、助かったのは、アレキサンドリアが身代わりになってくれたからじゃない!」
アレキサンダーは「そう思って、すぐに、弔問に行った健気なワシだ!」
フローラは「へぇ。あんたでも、ちょっとは他人の痛みがわかるのね。」
アレキサンダーは「ところがだな、マルゲリータばばあのところに律儀にも、お悔やみに行ってやったら、あのばばあ、アレキサンドリアの代わりに、もう、違う犬を他から、もらい受けてたんだ!あまりにも、アレキサンドリアが浮かばれないので、可哀想で、不憫で、ワシ、泣いてしまったよ!」
フローラは「それじゃあアレキサンドリアが可哀想だね。」
アレキサンダーは「はい!それでだな、その帰り、偶然、通りかかった、てっちゃんに馬車に乗せてもらって、海に行ったんだ。海に向かって、2人で、『アレキサンドリア!バカヤロー!なぜ死んだんだ!』と叫んだんだ。」
アレキサンダーは、目をうるうるさせて、涙ぐむ演出をした。
フローラは「しかし、なんか、嘘っぽいな。」
フローラの指摘は正しく、アレキサンダーは、あわよくば、アレキサンドリアの後釜のポジションを狙っていたのだったが、思惑通りには運べず、マルゲリータの家に入り込みは失敗した。
フローラの疑いをかわすように、アレキサンダーは「うるせえ!フローラ!お前は、そんなだから、かわいげがないんだ!」
フローラは「なによ!あんたに言われたかないわ!」
アレキサンダーは「ワシだって、おまえになんか、けなされたくねーよ!」
フローラと言い合いしているアレキサンダーに気づいたクマタンは、カウンターに近づいて「おい!アレキサンダー!また性懲りもなく、因縁をつけてるんだな!」続けて「フローラ!お客さんがいっぱいなので、コウガが大変なので、手伝ってあげて!アレキサンダーのようなヘボは、僕1人でも十分だよ!」
すこし心配するフローラに、クマタンは、厨房に行くように促した。
アレキサンダーは「なんだと!?ヘボで悪かったな!お前こそ、ヘボで、いつもうるせえんだよ!やんのか!?」と、たまにやるファイティングポーズの構えをかました!
クマタンは「おう!望むところだ!今日こそ、決着をつけてやるぜ!」
アレキサンダーは「フン!敵にとっては不足はねーぜ!口がきける今のうちに、せいぜいワシを罵ってみろや!今言っておかないと、後悔するぜ!クマさんよ!」と挑発した。
クマタンは怒り心頭になって、全身から炎が出るぐらい怒り狂っていた!
アレキサンダーは「どうしたって止められないような勢いだな!」
アレキサンダーは、いつも通りにクマタンにちょっかいをかけたつもりだったのが、予想以上にクマタンが頭にきている様子がひしひしと感じられた。
アレキサンダーは、“むむむ・・・なんだか、まずそうな形勢になってきたようだ!クマのやつ、どうしたって、止まらないような勢いだなあ・・・。しかし、コウガか誰かが止めてくれるだろう!”
クマタンは「敵にとって、不足はないぞ!かかってこいや!!!」
アレキサンダーは、“コウガちゃん!フローラちゃん!エレノアちゃん!・・・・・・来ない!役立たずめ!”
なぜか、ちゃん付けになっていた。
クマタンは、右手のパンチの構えで、アレキサンダーの左側の腕を狙おうとした!右ストレートが、ヒットしかけた!
寸前のところで、それをかわそうとして、アレキサンダーは、倒れた!
アレキサンダーは「来るな!来るな!っていうか来ないでほしい!!!」と言って、お尻で、床を滑らすように後退した!
クマタンは、もう1度、パンチかキックで、攻めてトドメを刺そうとした!
その時だった!フロアの床は、クマタンがモップで、艶出し用のクリーナーで、磨いていたので、足を滑らせて、転倒した!
その隙に、アレキサンダーは、急いで、起き上がり「今日は、配達で急ぐので、このぐらいにして、見逃してやる!!!」と叫んで、2本足歩行で、一目散に、走って逃げ去った!
クマタンは、起き上がって「くそったれ!逃げやがって!いつか仕留めてやるからな!ボケ!!!」
コウガは厨房からカウンターに来た。
コウガは「クマタン!大丈夫?やっとお客さんが、少なくなってね!」
クマタンは「大丈夫だよ!それにしても、アレキサンダー、ちょっとは懲りただろうね!」
逃げたアレキサンダーはリュウジンバーガーから離れた場所で一息ついた。
「今日のワシは、たまたま調子が悪かっただけ。クマ、次会ったら、命日にしてやるからな!首を洗って待っておけ!」
アレキサンダーは、薄気味悪く独り言を言っていた。それを見た人は、アレキサンダーのことが気味が悪く、避けて、歩いていた。それなのに、アレキサンダーときたら、自分が凛々しく感じられるので、近寄りがたいのだろうと勝手に思い込んでいた。