アーグラナイトダンジョンの話
ダンジョン、最深部を求めての宝を求めて、冒険者はダンジョンという魔窟に挑む。
踏破者には宝物も、失敗者には死を。そんなハイリスクハイリターンな場所がダンジョンだ。
その中でも特に、深夜種という通常のモンスターとは比較にならないほど強いモンスターが生成されるダンジョン。そんな深夜種のみが生成されるのがアーグラナイトダンジョンだ。宝は他のダンジョンに比べて比べ物にならないほど高価なアイテムが存在するが、上級、つまりAランク以上の冒険者4人以上で構成されたパーティですら第一層をクリアできないほど過酷なダンジョンだ。ゆえに、ナイトダンジョンから取得できる夜鉱石など夜を冠するアイテムは通常の数倍の高値で取引されるが、もう長く市場に出回っていないので、誰もが伝説の話だと思っていた。
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「買取お願いします」
ナイトダンジョンに潜ってから4日、初めてここに来てから、4日、4日も経っているのに俺以外誰も来ていない。なぜだろう。もしかして誰かの専用ダンジョンなのか?それならば俺も入れないはずだが..謎である。まあ怒られてないし、続けていくけど。
「ひっ....」
受付嬢に化け物を見るような目でまた見られた。悲しいなぁ...
「こちら、報酬の、3000万Gです」
「あっ、どうも」
あれからずっとレベリングと金策も兼ねて、延々とこのナイトダンジョンに通っていた。
門番には顔を覚えられており、最近は顔パスで入れるようになっている。流石に申し訳ないので、偶にクッキーなどを差し入れしている。今日はもう夜も更けてきたので、行きつけの料亭に行くことにした。
料亭:龍の晩餐。全国に支店を持つ、創始者が龍に晩餐を振る舞った料理人という料亭だ。アーグラ
の支店は本店には及ばないと言われたが、俺からしたら十分美味い。
「いらっしゃいませ」
本格的な懐石料理と割烹の店で、現実では一度も食べたことないが、この世界ではきちんと味覚も反映されるため、こういうプレイヤーが創設した店は非常に評判が高い。
「いつものコースで」
「かしこまりました」
土龍コース。創始者が土龍に振る舞ったと言われる、肉と酒をふんだんに使ったコースだ。野菜が少ないので、他のコースと比べて評判が低いが、俺はなんといってもこのコースでは酒が自由に飲めるので、このコースが大好きである。特にドワーフ特製の火酒が堪らなく肉と合う。お、そうこうしてるうちに、ぞろぞろと運ばれてきた。今日も、いただきます
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「お会計、50万Gとなります」
「タグで」
「一括で?」
「はい」
特殊な決算機械にギルドのタグをかざすと、自動で所持金が引かれる。これは便利だ。
店を出た後、今日はまだ午後過ぎだった。今朝は早くからダンジョンに籠ったので、午後はやる事がない。ないので、もうなんかアイギスの時みたいに変な事にならないように、早めにアーグラを発つことにした。ちょうど、次の目的地である鍛冶の街アロンへ行く商人がいる。彼らの護衛任務を受けよう。今日の午後出発なので、長旅の準備をしてこよう。アロンへの護衛任務は俺以外にもDランクパーティが受けたらしく、彼らと合同で行うのだろう。最初が大事、何か粗品でも買っておくか。
アーグラの少しお高めの雑貨屋で、高めのワインと、えー、何がいいんだろ、馬車乗るからクッションでも買っておくか。一応多めに5つほど。いや6つか。
「ありがとうございました」
会計を済ませ、最後に龍の晩餐で好きな酒を数本買っておく。さて、そろそろ時間だ、指定された場所に行くか。あっ、服も、そういえば全然変えてなかった。流石にまだレザーは良くないか。少し良いやつをアイテムボックスから選択し、その場で着替える。ここらへんはゲームらしく、パッと着替えられるので便利だ。
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深夜種、特に、隠密と暗殺で恐れられる夜天の死神。通常の死神と比べ物にならないほど強力な魔物。探索スキルで発見する事は出来ず、物理、魔法攻撃が通用せず、直視されるだけでも強力な麻痺と恐怖と悪夢を付与される、討伐難易度S級を超える魔物だ。そんな夜天の死神のドロップ品である夜天の死神の装備シリーズに俺は着替えた。それぞれ頭、胸、腕、腰、脚を全部装備すると、シリーズボーナスや装備ごとのステータスへのプラス補正や部位ごとのスキルもあるので個人的にすごく気に入っている。見た目は全身真っ黒で、頭装備は、フード付きのコートだ。これは正直あまり戦闘用には使っていない。強いけど、薄手だから、夜の少し肌寒い時間帯はちょっとさむい。そんな装備で俺は護衛任務の集合場所に向かった。武器は最近覚えた双鎌スキルのために、二つ装備している。これも夜天の死神のドロップ武器である夜天鎌を二つ。刃までもが真っ黒なこの大きな鎌だが、魔力で大きくしたり小さくしたり、なんなら形態を変えたりできる。これは双鎌スキルのおかげで、二つ装備し、両手で振り回せる。超楽しい。すらすらモンスターが倒せるので、すごい楽だ。この格好なら護衛対象の商人も安心感たっぷりだろ。
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「あ、貴方が...護衛を...うけ...ひっ...来ないで...」
えー??
ウキウキで集合場所に向かったら、先についていたDランクのメンバー4人は俺を見た瞬間、「ば、ばけもの!うわぁあああ」と言って全員どこかに行ってしまった。
依頼主である商人もどこかに行こうとしていたが、急いで短距離転移で捕まえると、諦めて話を聞いてくれた。
「あの、依頼を」
「ひぃい!行きます行きます!アロン行きます!すいません!」
「えっあの」
何かに怯えたようにしている商人が爆速で馬車を走らせた。なぜ怯えられているのか分からないが、とりあえず出発できたので良かった。良かった?まあいいか。とりあえず荷馬車の開いた場所に腰をかけ、自分のステータスと新たにスキルを取得していく事にした。
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名前 シエルボ・ザエクスキューター
LV 86
職業 死将軍
称号 迷い人 死神 神秘の師 虚弱体質 貧弱 不運 邪精霊の悪夢 邪地霊の悪夢 深魔族の悪夢 深夜種の悪夢 龍族の盟友
アクティブスキル <隠れる> <隠す> <特殊戦闘術:命を狩るもの> <鑑定> <無音歩行> <短距離転移> <アイテムボックス>
etc...
パッシブスキル <無体> <無我> <隠遁者> <常時HPMP回復> <致死> <必中> <審判者> <死神体> <アルカナマスター>
etc...
HP 6400
MP 4800
筋力 889
魔力 480
精神力 600
耐久力 690
器用さ 3250
俊敏さ 1200
抵抗力 260
幸運 8
信仰 5
武器:夜天鎌
装備シリーズ:夜天の死神
頭:夜天頭
胸:夜天胸
腕:夜天腕
腰:夜天腰
脚:夜天脚
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スキルやステータスを割り振った後、改めてアーグラのナイトダンジョンってすごくおいしかったんだなって思った。かっこいいアイテムはドロップするし、アイテムは売れるし、アロンに行くのは少し早計だったかなと少し後悔してる。でも最深部でのモンスターも倒したし、コアは見つからなかったからあきらめて帰ったけど、もう少し粘るべきだったかな?でも今更行ってもしょうがないか。依頼主はもう落ち着いたようで、俺の方をちらちら見ているが、先ほどのように怯えた様子はなくなった。それに、いくら爆速で走ってるとはいえ、荷馬車にも限界があるようだ。そろそろ夜も更けてきたので、商人も野営の準備を始めた。