初戦闘の話
多くの冒険者に踏み均された道を少し外れた場所に、ゴブリンたちがいた。
どうやらゴブリンはうさぎを狩っていたようで、火を起こしてウサギを食べていた。
ゴブリンにもある程度の知性があるのかと驚嘆していたが、せっかくのチャンスなので戦ってみる事にした。
(アルカナ:隠者使用、スキル<隠れる><隠密><消音><魔力体>起動)
別に心の中でいちいち言わなくても発動するが、せっかくなので一度やってみた。
アルカナ使いの称号を所持しているため、俺は22のアルカナカードとそれに付随したスキル効果が発動できる。隠密のアルカナ、効果は全隠密系スキルコスト減少、および敵を一撃で仕留めたときに使用した全隠密系スキルのクールダウンタイムを0にする。ちなみにアルカナ使いの称号を取得すればこの全アルカナカードが使えるが、代償は全HPとMPの最大値を3分の1。めちゃくちゃつらい。アクティブスキル、ASは隠れるを使用し、同時にパッシブスキルである隠密や消音なども起動した。これらがもたらす隠密効果と消音効果はすさまじく、雑貨でポーションを買う時、どれだけ大声やどたばたしても全く気付かれなかった。気づくまですげい時間かかったけど。魔力体は自身の体を一時的に魔力でできた体にすること。これにより物理無効化とその他もろもろが得られる。ただし近くで魔法を使用されるととんでもないダメージと共に魔力体を解いたときに腕がなくなったりというバットステータスに陥る可能性があるハイリスクハイリターンなスキルだ。魔法や魔術は魔力や魔素を使用するのでその魔力になっている俺がダメージを受けるのもわかる。
(魔法使いに吸われるのかな?)
そんなしょうもない事を考えながら武器を抜いてゴブリンに近づく。
どうやら全く気付かれていないようで、俺は両手に握った短剣を構える。少し特殊な構えだ。右手は普通のショートソードのように構え、左手は上下逆さまにして構える。
(アルカナ:死、皇帝及び戦車を使用、<致命の一撃><急所切り>!)
アルカナ::死の効果は見た相手の弱点を自動でマークし、そこへ攻撃した時、相手の即死抵抗を0にする。また副次効果として、即死効果を付与、手に持っているものならなんでも即死効果を付与できる。皇帝はあらゆる成功率を100%にするもの。バフデバフを問わない。戦車の効果は、自分の攻撃が成功した時、近くにいる自分と戦闘をしている敵に同じスキルをもう一度使用できるというものだ。致命の一撃は対象の弱点を攻撃する際、ダメージを2倍にするという効果で、急所切りは、弱点攻撃時、自身の攻撃力を2倍にするというもの。
手に持った短剣がゴブリンの首を切り裂くとき、まるで紙をハサミで切り裂くように簡単だった。
そのまま戦車の効果で自動的に次のゴブリンの背後に移動する。それも同様にシュッという音と共に、そしてそのまま3匹、そして最後の4匹と。
不運という称号もあるが、皇帝の効果でドロップするはずのアイテムは全てドロップする。今回この4体を倒して出たのは、討伐証明であるゴブリンの耳、ゴブリンの魔石、それからゴブリン・ソードが二つとゴブリン・シールドが一つ、そしてゴブリン・バットが一つか。イノシシのように丸ごと持って帰るのかと思ったが、動物系の魔物と違ってこいつらはポリゴン化した後に、アイテムが出るようだ。
(アイテムボックス起動、自動取得、全ランク)
これは全プレイヤーが所持しているスキルで、現地民は一部を除いて所持してないようだ。ゴブリンのドロップアイテムを自動で拾ってくれる便利スキル、めちゃくちゃありがたい。先ほどの戦闘でレベルも上がったみたいだし、ステータスはクリティカル攻撃が入りやすくなり、鍛冶やモノづくりに必要な器用さと足の速さと回避率が上がる俊敏さに振っておく。そして鑑定をしようしながら、薬草を自動取得し、俺は引き続きゴブリンを探すことにした。
***
それから、ずんずんと奥に進んでいき、いくつかのゴブリンの集落を発見した。アルカナスキルで隠れながら村を散策したが、囚われている現地民とか、プレイヤーとか、明らかなに場違いなほど強いゴブリン・ジェネラルもいなかった。いないので全員倒した。
いくつかお宝も隠し持っていたようで、冒険者ランクCやBが使うようなミスリルソードや移動速度の上がるヘルメスブーツもあった。これは思わぬ収入だ。売ればそれなりに金になるだろう。
それからさらに奥に行くと、何やら司祭?のような恰好をしたゴブリンを囲んで、大勢のゴブリンが歌いながら踊っていた。なぜ踊っているのか見てみると、どうやらどこからか現地民を攫ったらしい。茶髪の少女が縄で手足を縛られて、何やら魔方陣の上に載せられている。残念ながら何を行う魔方陣か、専門知識やスキルがないのでわからないが、脳裏に、[隠しイベント発生!攫われた少女を救出せよ!]と聞こえてきた。ここで少女を助ければイベントクリア、見捨てれば失敗という事か。少女を鑑定してみると、どうやら宿屋の一人娘の様で、まだ処女とかいらない情報を表示した鑑定スキルを不便に思いながら、まだゴブリンに手を出されていない事に安堵した。
(アルカナ:隠者使用、スキル<隠れる><隠密><消音><死神>起動)
前回と同じようにアルカナカードを使用。スキルは今回は司祭ゴブリンが魔法を使う可能性があるので、魔力体ではなく死神モードに。これを使用すると、全員が黒いローブで包まれ、脚部が消滅し、顔に白い髑髏のマスクが強制的につけられる。さらに事前に所持していた武器が変化する。今回持っていた武器は二つの短剣。なのでその二つが合体して、そのまま黒い霧に包まれると同時に、巨大な首切り鎌になった。この死神状態では声が出せないので、そのままスキルを発動する。
(アルカナ:戦車及び皇帝使用、スキル<致命の一撃>起動、死神権限:<魔眼><斬首>発動)
戦車はいつものやつ。皇帝もいつものやつ。<致命の一撃>もいつものやつ。死神権限は職業が死神である事、死神モードである事を条件に使用できるスキルで、魔眼は数ある眼関連のスキルの一つ、これは弱点を表示してくれるだけだ。他のスキルのように防御力を下げてくれたりはしない。ただし、この魔眼と目が合うと、相手は魔法とその他魔力を使用するスキルが使用不可になり、目が合った時間だけ抵抗力が減少する。そして抵抗力が0になった生物がこの魔眼と目を合わせると、即死だ。これだけでも十分強い。斬首は死神の攻撃系のATで、他にも斬腕、斬脚など、なぜか部位ごとに斬れるようになっている。これいる?と思ったが、部位破壊や討伐証明を切り取るときに便利だなとしか思ってない。とりあえず全員?全ゴブリン?と戦闘状態に入らないといけないので、
(死神権限:<悪夢の叫び声>発動)
というスキルを発動した。これは範囲内の敵の抵抗力を下げ、バッドステータスである恐怖や混乱、失神などを付与する効果だ。ついでに戦闘状態にも入れるので、戦闘開始の合図にはちょうどいいだろう。
***
数分後、バッドステータスまみれで動けなくなったゴブリンやその場で立ち尽くしたゴブリンたちを作物の収穫のようにばっさばっさと倒していき、自動取得で全部アイテムボックスに入れておく。司祭ゴブリンは少し恐怖などがあったがまだまだ動けるようなので、武器を首元にあて、魔眼でずっとにらみつけていたら、あっという間に心停止した。そして、その後、死神モードを解除して、普通の状態で攫われた娘を助けようとしたが、どうやら悪夢の叫び声にあてられて気絶してしまったようだ。
(あーやらかした。除外するの忘れてたわ)
完全に俺のせいなので、ここはアルカナカードで解決しようと思う。
(アルカナ:月使用、月のしずく)
月はアルカナカードにおいて回復系の効果を持つ。月のしずくの他にもいろいろあるが、今はしずくで十分だろ。効果はバッドステータス解除と安眠。辛そうな顔が安らかになり、そして寝息を立てているので、俺は彼女を抱っこしてアイギスの街に帰る事にした。