騎士団と訓練:前半の話
昨晩はいつも通り、狩れるだけ狩り、最低でもレベルを1上げて帰った。騎士団の方は昨晩見せしめとして戦って分で十分だろう。そうして翌日、今は全員並べて訓練場を走らせている。体力作りは大切だ。昨日の俺との戦いで、数分剣と振っただけですぐに疲れ果てるようでは話にならない。なのでまずは走りこみをさせる事にした。もちろん騎士団の正装、全身鎧でな。
「ひぃ~!!」
巨大な訓練所とはいえ、のろのろ走られても困るので、後ろから最後尾から追いかける事にした。
(<威圧>)
少し強めに<威圧>スキルを振りまきながら後ろから全力で走り出す。そうすると騎士団員達は全員悲鳴をあげながら決められたコースを走り出した。なんだがそれが面白くてつい笑ってしまう。
「ふはははは!」
えっ!?何この笑い声は...<威圧>につられて笑い声までなんか威圧的だ。それを聞いた騎士団員達はより一層怯えたように走り出した。ちょうどいいか。再び笑い声を出しながら後ろから追いかけだした。同時に訓練領域も展開した。
「なんだか嫌な予感が.,.」
「大正解!」
俺は疲れてサボっていた最後尾のやつを見つけて、思いっきり木製のゴブリンバットでぶん殴った。ダメージは少ないが、普通に殴られれば痛い。
「おらぁ!走れ!」
「いたぁ!」
後ろからバッドをぶんぶん振り回しながら再び追いかける。そうして朝から昼までひたすら走り込みをした。昼飯は俺の手作り料理だ。宿屋を調理台を借りて、ちょくちょく自炊したり教えてもらったりしていたので、高級とはいかないが、普通の飯くらいは作れる。
「おら!お前ら飯だぞ!今日はステーキだ!好きなだけ食ってもいいぞ!」
「ああああ!」
地面に倒れていたやつらがゾンビのようにノロノロと声にならない声をあげながらアイテムボックスから取り出したテーブルと椅子に座って飯を食いだした。
「うまいか?」
がつがつとわき目も振らずに飯を食っていたユウトに聞いてみると
「めちゃくちゃ上手いっす!なんすかこれ?」
「モンスターの肉だ」
「ボエェ!」
「吐くな!」
ゴブリンバットで殴り飛ばした。ノーザンの森には冬熊や冬猪などの食べられるモンスターがおり、これらのモンスターは食える。最近はアイテムボックスのレベルを上げて、[自動解体機能]が解禁されたので、それを使用して自分でモンスターを解体し、素材のみをギルドで売る事にしている。その時に肉をいくらか自分用にとっておいたので、それを今は振る舞っている。しかもこいつらは冬眠するので、今の時期だと丁度エネルギーをため終え、穴を掘って眠る直前という時期だ。そんな時期の肉が一番うまい。そんな肉はシンプルにステーキ、盛り合わせはロングワープで王都から買ってきた焼きたてのパンとコーンスープとサラダだ。もちろんコーンはデーモン・コーンと言われるモンスターから取れたもので、サラダもキノコ系や野菜系のモンスターをふんだんに使用している。全部空いた時間に王都のベジタブルダンジョンという、主婦や女性冒険者に人気のダンジョンからドロップした食材だ。
「お前ら!残さず食え!おかわりしたやつもだ!食って走って戦え!それが強くなる秘訣だ!」
「おおおおお!」
そういうと次々と遠慮なくおかわりをしに来た。よしよし、料理するのは嫌いじゃないし、こうしてうまいうまいと言って食ってくれるのは嬉しいもんだ。
食事の後、全員に数時間の睡眠を取らせた。時間は約二時間。
「疲れはすぐには取れない!食って寝て動け!休む時はきちんと休め!睡眠不足で無様に死んだらもう一回俺が殺しに行ってやる!わかったら寝ろ!」
ちなみに朝から今の今までずっとこいつらには鎧を着てもらっている。ごつごつして寝づらいはずだが、きちんと全員眠れたようだ。俺もゲームのアラーム機能を使用して、少し仮眠を取る事にした。
***
アラーム音に起こされ、俺も目が覚める。俺が起きたことに気づいて、全員再び整列して俺の指示を待っていた。よし。何人かは睡眠時間がまだ不足しているようだが、まあしばらくすれば慣れるだろう。
「訓練領域発動」
今回は訓練場の一部を除いて全てを訓練領域にした。
「次は実戦だ!俺は魔法を使わない!全員で切りかかってこい!」
「えぇ...?」
流石に騎士団のメンバーも俺がいくら強くても1対500は無理だと思われているようだ。
「ふふふふふ」
俺はリザードマンの装備から、500人を相手するための装備、
龍人の装備一式に着替えていた。
多分王都のナイトダンジョン潜ってた時にドロップして装備の様だ。龍人なんて戦った記憶がないんだが、恐らく宝箱かモンスターか...まああったしいいか。
「来ないなら俺から行くぞ!」
あいも変わらずゴブリンバットを両手に持って近くの騎士団に殴りかかった。すると全員逃げ出したので、
「逃げるな!戦え!お前らも街を見捨てるのか!」
そう大声で叫ぶとぴたりと逃げるのをやめた。まだみんなたじろいでいるが、少なくとも街を守ると言う使命感はまだあるようだった。
「いいか!お前たちはノーザンの騎士団だろ!誇り高き冬の騎士団なんだろ!お前らが街を守らないで誰が守るんだ!大事な街を!家族を!人々を見捨てるのか!」
全員意を決したようで、俺に怯えてるだけではなくなったようだ。よし、ようやっとできそうだな。
「全員でかかってこい!俺を倒してみろ!」
そういいながら装備スキルである<龍人の咆哮>と<龍人の威圧>を発動する。
何人かは脚がすくんだようだが、直ぐに己の精神力で打ち勝ったようだ。
「うぉおおおおおおお!」
決死の覚悟で襲い掛かる騎士団相手に、俺は真正面から突っ込んでいった。
***
5時間後、ちょうど全員叩きのめされたので、ここら辺で今日は切り上げる事にした。
「全員整列!」
全員死に体だが、きちんと整列する。
「今日の訓練はここまで!この後俺は晩餐をここで作るが、家族と食うやつは遠慮なく帰れ!以上!解散!」
半分くらいの団員は家に帰り、残り半分の団員はもう既に椅子に着席して俺の飯を待っていた。おいさっきまで死にそうになってたのになんで飯の時はこんなに元気なんだよこいつら。しょうがないな。
今夜は結構冷えるので、今日は冬猪のシチューを作った。もちろん魔物野菜も入れて。それから数日は今日のような訓練メニューをひたすら続けた。走って飯食って寝て戦って、走って飯食って寝て戦った。俺も王都に戻ったり、赤色魔物域にレベル上げに行ったり、騎士団ボコったりして過ごしていた。それから一か月、朝から昼まで走り込みをしても俺に殴り飛ばされるやつもいなくなり、きちんと飯を食った後の、全員短い睡眠でもきちんと休めるようになっていたり、俺との戦いも、連携を取って全員でまともに戦えるようになっていた。
全員<鑑定>してみると、既に全員レベル40は超えていた。これならば、全員ノーザンの森でモンスター達の開いてもできるだろう。