レベリングと騎士団を鍛え上げるの話
翌日、朝一で昨日の素材をギルドに持ち込むと、ギルド職員達で緊急会議をすると言われ、俺も二階にある会議室に引きずり込まれた。どうやらノーザンでは赤肌のモンスター達は滅国のモンスター達と言われ、二百年前にノーザンの森の巨大な樹木から出現し、街に大損害を出し、危うく街が滅ぶところだったらしい。なのでこれをどこで倒したのか聞かれた。200年前の件は、おそらくモンスター達が鏡世界からあふれてしまったのだろう。なので俺は全員にきちんと魔法陣に血を垂らしてかくかくしかじか...
全員怪訝そうな顔をしていたが、事実として倒して素材を持ち込んでいるので、信じざる終えないのだろう。
そうしてみんな暫く話し合ったと、どうやら俺に指名依頼が出るようだ。ギルドマスターから言われた条件はこうだ。
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クエスト名:滅国のモンスターの討伐
指名:シエルボ
内容:赤の入り口から鏡世界に行き、滅国のモンスターの間引きをしてほしい。全てを討伐する必要はないので、溢れない程度に倒してほしい。
期間:この件は一度王都の上層部に持ち込み、Aランク以上のパーティを派遣してもらうなど対策が出るまで
報酬:一体につき金貨100枚+王都でのオークションの落札価格
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「受けます」
「ありがとう、よろしく頼む」
ギルドマスター一同に頭を下げられ、少し驚いたが、レベリングも兼ねて金策もできるのはありがたい。なので今夜にも早速向かう事にした。そう思って俺は早速準備しに部屋を出ようとしたが、ギルドマスターに引き留められた。どうやら俺に街の騎士団の訓練をしてほしいそうだ。ノーザンの騎士団と言えば、冬の騎士団と言われており、東大陸では有名な騎士団のはず、わざわざ俺が鍛える必要などなさそうだが?
「ああ、それは昔の話だ、今の冬の騎士団は正直名前だけで、一世代前と比べると、貧弱そのものだ」
「なぜそうなったんだ?」
「西大陸の発見だよ」
「あー...」
ようは強い騎士団の人間などは王都の西大陸探索隊に引き抜かれたりして、残ったのは使えないやつらばかりという事か。それは困るな。しばらく赤色魔物域でレベリングする予定なので、正直他の事にかまけている時間はない。それに、数か月後にはノーザンへモンスターが食料を求めて襲ってくるらしい。そんな定期イベントであるノーザン防衛戦に今のところ参加する予定はないので、騎士団に主力になってもらわないと、滅国のモンスター以前に普通のモンスター達に負けそうだ。レベル100から必要経験値はぐんと増えるので、そんな数か月でぱっぱと目標レベルに到達もできそうにない。しょうがないので俺は騎士団の育成を引き受ける事にした。
***
「こんにちは、ギルドマスターから皆さんの訓練を頼まれたシエルボです」
ギルドマスターに教えてもらった騎士団の詰所兼訓練所に俺はいる。なぜ騎士団長じゃなくてギルドマスターに依頼されたのかというと、先代の騎士団長は今の老年のギルドマスターと同じパーティの冒険者だったらしく、いわゆる昔のよしみで、今の騎士団はギルドマスターにとっては自分の後輩のようで、ほったらかしにできないらしい。なぜ現在は団長がいないのかと聞くと、誰もその実力が伴っていないそうだ。好きな時間から午後5時まででいいらしく、指名依頼の方は最優先で構わないらしい。
そんな事で、とりあえず今の騎士団全員を訓練所に集め、全員に挨拶しながら<鑑定>で一人一人ステータスを見ていった。
総勢500人、全員見てみたが、最大レベルが32、最低レベルが10の人もいた。ノーザンの森のモンスターのレベルが低くても50なので、今のままでは外にモンスター退治にすらいけなかった。なので、まずは訓練所で基礎訓練からだ。
「という事で、今日は走り込みから始めます」
「おいちょっと待てよお前!」
俺がそういうと、騎士団の一人がずかずかと俺の方に歩いてきた。名前はユウト。ふむ、レベル28、騎士団では高い方だろう。
「なんで俺らがお前の言う事聞かなきゃいけないんだ、あ?」
「は?ギルマスから話聞いてないのかお前?」
「聞いたよ、俺らはギルマスに訓練をしてもらうつもりだった。だがなんだお前は?ホントに強いのか?」
あー、そうか。もともとはギルマスが訓練をする方向だったが、俺が赤肌のモンスター達の件で...うわぁ、ギルマスごめんなさい。なので、きちんと俺が責任取って全員使い物になるようにしますね。
「じゃあ、やるか?」
「あ?」
「俺の強さを測りたいんだろ?一応言うがノーザン着てからAランクになったぞ」
「Aランク!?」「やばくね」「それはめちゃくちゃ強そう」
「はっ!リザードマンの装備で何をイキってるんだ!そんな装備Dランクでも倒せるぞ!」
あー、こいつ見た目で人を判断するタイプか。うーん。こういうやつは一度分からせないと、後が大変だな。
「こいつ不服なやついるか?遠慮せず出てきてくれ」
Aランクと聞いて、何人かはビビったようだが、ユウト以外に2人出てきたようだ。
「えーと、ユウトとマイクとカールか」
「そうだ」
「うす」
「はい」
それぞれユウトはレベル28、マイクはレベル25、カールは24だ。
「お前ら全員不服だと?」
「そうだ」
「じゃ、戦ってみる?」
「は!後悔するなよ!」
まずはユウトとタイマンで戦う事にした。どうやらユウトはかなり自信あるようで、自慢げに自分のスキルや武勇伝を話してくれた。正直この後やる事もあるし、お腹空いたし、三人も相手するのはめんどくさいので、全員近くで見ててもらう事にした。カールに戦闘開始の掛け声をかけてもらう事にした。
「戦闘開始!」
そういうとユウトは一直線に俺に斬りかかってきた。隙だらけの袈裟切り、これに当たる方が難しい。なので、俺はユウトには悪いけど見せしめとしてボコボコにしてやる事にした。
「おそいよ~」
余裕の表情と動きで躱す。その次の攻撃も、次も次の次も全部躱す。数分すると、ユウトは息が上がってきたようで、構えた剣と盾が少し下がってきた。
「は!躱すだけかよ!こっちから攻めたらどうだ?」
「わかった」
そういうと俺は足に力を入れて、盾ごとユウトを殴り飛ばした。少し手加減したため、ユウトは少し下がっただけだった。
「は!この程度かよ!」
「無属性魔法:訓練領域発動」
「!?」
訓練領域とは、領域内で起こった戦闘行為のダメージを全て精神ダメージに変換し、致死的な攻撃を食らった際に自動で相手を領域外に弾き飛ばして無傷にすると言うものだ。王都の学園の訓練場では地下にある巨大な龍の魔石を使用して常時この無属性魔法を発動させているらしい。それを俺は人一人で発動させた。範囲はユウトとの戦闘にちょうどいい大きさにしておいた。これなら俺が手加減をしなくてもユウトは死なないので、見せしめにボコるには丁度いいだろう。
「ユウト、死ぬなよ?」
「へ?」
そう言って俺はまた盾ごとユウトを殴り飛ばした。
今度は容赦なく殴り飛ばしたので、盾が砕け散り、おそらく腕も折れただろう。ただ、肉体的な損傷は一瞬で精神ダメージへと変換され、ユウトの脳は腕が折れたと感じ、それと同等の痛みをユウトに伝えたのだろう。そうして引き続き叫んでいるユウトを俺は掴み、雑に地面に投げつけた。そしてそのままマウントポジションを取り、魔力を拳に込めてユウトの顔面を殴る出した。一発、二発、三発と…
最初はやめろ!などと言っていたが、防いだ腕を容赦無く殴ってへし折りながら顔面をぶん殴っていた。
次第にユウトからは威勢の良い声もなくなり、うめき声しか出なくなった。そろそろかと思い、最後に一発、ユウトの顔面ごと地面が陥没するほどの力でぶん殴ってやると、ユウトが領域から自動で弾き出された。どうやら衝撃で気絶してしまったらしく、ぐったりしているので、手の空いた人に詰所の休憩室に運んで行ってもらった。
「次は、マイク?やる?」
「うす、おなしゃす」
マイクも比較的若い青年のようだ。若気の至りというやつかな?今のままノーザンの森へイキって死なれても困るので、こいつも見せしめのようにボコボコにしておく事にした。
数分後、マイクはユウトよりは少し体力があるようだが、こいつもユウト同様、盾を腕ごとぶち壊してやった。ただマイクの場合は空と地面の旅をプレゼントしてやった。いわゆる空へ蹴り上げて、そのままマイクと同じ高さでジャンプし、踵落としで地面まで叩きつけるあれだ。10往復ほどしたらマイクも領域から弾き出され、気絶した。なのでまた運んでもらった。カールにも戦うと聞いたが、物凄い勢いで首を横に振っていたので、見せしめとしての効果は覿面だったのだろう。他の騎士団員も俺のことを化け物のように見ている。なんかムカつくので全員徹底的に鍛え上げるか。