はじまりの話
俺の名前は鹿道 龍平、どこにでもいる一般男子大学生だ。
専攻はIT系、理由は俺が無類のVRMMO好きだからだぜ。大学二年生の夏季休暇、俺は去年一年バイトして買ったこの最新型フルダイブヘッドギア+専用のゲーミングチェアと新作のゲーム、その名もLast Land、通称ラトランを思うがままプレイするんだ!
さっそくトイレと食事、そのたもろもろを済ませ、俺はヘッドギアにカセットを挿入し、ゲーミングチェアを最も心地いい角度に調節した。顔の横にある起動ボタンを探りあて、カチッとボタンを押すと、ゲームスタートのカウントダウンが始まった。俺は全身をリラックスし、そっと目を閉じて、新たに始まるこのゲームに期待を寄せた。
***
「こんにちは、新たな絶望に抗うもの、貴方の名前を教えてください」
起動した後、気がついたら俺は真っ白い空間にいた。目の前には西洋の女神そのものがおり、どうやら彼女がいわゆるシステム管理者のアバター的な人物だった。
「名前、えと、Deerでいいや」
鹿道だからdeer、安直だけどまあいいやろ
「既に使われているようですね、他の名前は?」
「え、メタい....」
どうやらよくある名前が他の人に使われているアレだ。無難に123と数字でもつけようかと思ったが、もう少し凝ってみる事にした。
「じゃあカタカナでシエルボ、これならどうだ」
そういいながら名前にシエルボと入力した。
「シエルボ、ようこそLast Land」
目の前にいる女神がそういうと、急に部屋が真っ白に輝きだし、まぶしさのあまり目をつぶると、グイっと引っ張られるような感覚がした。
***
あまり不快ではなかったが、引っ張られる感覚がなくなると、次は宇宙のような空間にいた、空中だけど感覚的には何か透明な足場に立っているようだった。真下には青い惑星があり、地球に似た地球ではない別の惑星のようだ。
「シエルボ、貴方の力を選ぶのです」
女神がそういうと、俺の目の前に膨大な量のスキルと職業がリストになって表示された。
パッシブスキル、アクティブスキルの他に、どうやらオーバードスキルというものがあり、バランスを壊すレベルの効果を誇るスキルだが、最大体力三分の一や魔力最大値を0にするなど、デメリットもとんでもないようだ。
職業の方も、戦士、剣士、騎士、盗賊など基本職から、上位職の狂戦士、魔法剣士、聖騎士などが存在する。しかし、俺は自分のステータス欄を見ていた。
「シエルボ??」
女神が不思議に思って俺の方を見ている。それもそうだ。スキルを取得するのに
スキルポイント、職業を取得するのに職業ポイントを消費する。現在俺は共に1000P持っている。
しかし、俺はスキルそっちのけで自分のステータス欄を見ていた。なぜなら、自分のスキル欄のそれぞれの項目に+と-が表示されていた。どうやらステータスもいじれるみたいで、試しに筋力を1減らすと職業Pが1増えた。そしてステータスの下に振りなおしという表示と確定というボタンが表示されていた。
「女神様!少し待ってくれ!これは時間がかかる!」
「はぁ....わかりました」
***
「できた!終わったぞ女神様!」
数時間後、いつの間にか消えていた女神さまを再び呼び出し、俺は準備完了の意志を伝えた。
「確認しました。シエルボ、それでは、良き旅路を」
そう言って女神さまが俺に手をかざすと、俺の体が光に包まれ、少しの浮遊感の後に、再び目を開けると、そこはもうLast Landの始まりの街、アイギスだった。
中世の街並みを基調とした街で、俺がいる場所は街の中央の噴水広場のようだ。
左手で空中をスライドすると、コマンドメニューが開けるようで、改めて自分のステータスを確認した。
きちんと俺の設定した通りになっており、安堵した。
現在のレベルは1、所持金は500Gとなっている。確か事前資料では1円=1Gなので、課金する時も計算が楽だ。
(課金はしない。多分。きっとメイビー)
さて、ポチポチと自分の装備をメニュー欄から装備し、まずはお約束の冒険者ギルドに向かう事にした。
このゲームでは、プレイヤーは冒険者ギルドからさまざまなクエストを受ける事でその分の報酬や武器が貰えたりする。もちろん、NPCとしての冒険者たちもいるし、なんならNPC、いわゆる現地民からプレイヤー、いわゆる迷い人はあまりよく思われていなかったりする。それもそのはず、現地民にはプレイヤーのようにスキルをいきなりもらえたりはしない、この世界では職業は、教会もしくは転職屋を探して金を払って変更するしかない、スキルもそうだ、単純作業で取得できる<伐採>などのスキルはまだいいが、強いスキルほど取得が困難になる。また、イベントをこなせばプレイヤーはポンともらえる称号も、現地民たちはそれ相応の名声や実績がないと付かない。
(プレイヤー優遇されすぎだよね)
俺が言うのもなんだが、これは恨まれてもしょうがない。