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金魚  作者: 夏旗 二鹿
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八つ当たりと雨

悪い夢を見て目が覚めたのは昼間だった。

「君が居るから僕は死ねないんだ」

寝ぼけて金魚の水槽に呟いた台詞は、我ながらダサかった。

「まあ、理不尽。」

きっと何時間も前から起きていた金魚は窓際の水槽の中で揺らめいている。僕はそれをしばらく呆然と眺めた。何日か前に買ってきた白い花の咲く浮草が、この小さな貴族を飾っている。

「…嘘だ、いや、嘘じゃないけど、だけど」

撤回しようとした言葉すら端切れ悪く尻すぼみになった。

「確かに私はあなたが居なければ死んでしまうわ。そうは言っても、誰がエサをくれたって同じだけれど。」

と金魚は言う。

「…情けないよな」

僕は布団に突っ伏してごにょごにょと呟いた。

「あなたが情けない?そうね、びっくりするほど不甲斐ないわね。」

おしゃべりな金魚は、今日も歯に絹着せぬ物言いだ。もっとも、金魚に歯があったかどうかは怪しいけれども。

「今更、ですか」

「今更よ。」

金魚が僕の言ったことを肯定するので、僕は溜息をついて、忘れないうちにエサをやってから再び布団に潜り込んだ。


 目を覚ますと、もう外は暗くなっていて、雨が降っていた。道理で寒いわけだ。

「雨ね」

僕が布団の中で目を覚ましたのに気がついて、金魚が言う。

「そうだね」

僕はぼーっとした目で外を眺めながら、

「もしもこのまま雨がずっと降って、何一つ水の中に沈んでしまったら」

と言った。

「君は自由になるだろうね」

なんでこんなことを言っているのか、自分でもよく分からなかった。

「確かにそうね」

と、金魚が言うので

「ガラスの中じゃなくて、どこまでも遠くへ行けるんだね」

と、僕は言った。

 金魚は珍しく少し黙ってから言った。

「それでも、もしあなたが居なかったら、少し寂しいかもしれないわ」

「…そう?」

窓の前に置いた水槽が、ガラス越しに雨を溶かしこむように見えた。そのまま、金魚と外を眺めていたいと、ふと思った。

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