お土産
「明日は少し出かけてくるよ」
と、珍しく僕は言う。珍しくなんて自分で言って悲しくなるほど久々の外出だ。
「そう、分かったわ」
澄ました声で金魚は言って
「お土産を買ってきてよ」
と僕に言う。
「…お土産?もう一匹金魚買ってくればいいの?」
金魚に買うお土産なんて思いつかない僕が阿呆な事を言うと、金魚は
「喋れない金魚なんて。」
「いや、それが普通でしょ」
一応当たり前の突っ込みを入れるが、たしかに喋らない普通の金魚が彼女と上手くやって行ける気はしない。そう思って黙った僕に、呆れたように金魚は言った。
「そうね、水草が少しほしいわ」
金魚が言った通り水草を買いに、用事のついでにペットショップの一角に足を踏み入れる。
あいつに何か買ってやったことは無かったなぁとふと思う。
水槽の中に群れる熱帯魚や金魚が喋り出すんじゃないかと一瞬思うが、そんな事は起こらない。そりゃそうだ、と、僕はどこかがっかりしながらほっとする。
水槽を上から覗けば、水草も種類がある。丸い葉の浮草も、細い水草も。
なんとなく、夜の街灯の中に浮かぶような金魚を思い浮かべた。あいつにはどれが似合うだろう。
「あなたにも、センスなんて言うものがあったのね。」
「…随分馬鹿にされていたみたいだね。」
僕は皮肉っぽい金魚に溜息をついた。白い花が水面に咲く水草は、この小さな貴族のお気に召したようだった。
何より、窓の外の街灯に照らされて煌めく鱗とガラス細工のようなひれ、それと白い花が相まって、幻想的だった。我ながら確かに、センスなんていうものがあったのだなぁと思う。
「きれいだよ、よく似合ってる。」
柄にもなく僕はそんなことを言う。
「そう、どうもありがとう。」
金魚は照れもせずに言う。
「私に似合うわね。高かったんでしょう?」
問われて僕は頷きかける
「…金魚が水草の値段を知っているなんてね。」
「いいものでなければ、私に似合うはずないでしょ?」
一体この金魚は何様なのだろう。
「別に普通の水草だって良かったけど、あなたが私に似合うと思って選んでくれたのが嬉しいの。」
珍しく優しいことを言う金魚に僕はびっくりした。
「そう?」
柄にない事ばかりだが、しないよりは良かったみたいだった。




