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金魚  作者: 夏旗 二鹿
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夜に浮かぶおしゃべり


 例えば、生きる意味というものが現実と言うものなら、この世界の現実に僕など必要はない。

 夢というものなら、それは触れれば壊れてしまうものなのだろう。


「そんなに生きる意味を壊してまで何がしたいの?」

呆れた声で、それは僕に問うた。

「さあ、ね。責任逃れ?」

そう答えてみれば

「ふうん。」

ゆらゆら、水の中を行ったり来たり。

「意気地なし。」

金魚の目が、水槽にのガラスに映る僕の目と重なる。

「知ってるさ。」

と、僕は肩をすくめた。

「僕は意気地なし。何も叶えようともしない夢想家だよ。」

「前世はブルジョワだったのかしら。」

自分こそ昔の貴族のドレスのようなひれを揺らめかせて、金魚は皮肉を言う。

「そうだったらいいね。幸せだっただろうから。」

「まあ、卑屈。」

呆れた目をする金魚と僕の目がまた重なる。

「今世では何もしないつもり?」

金魚は問う。

「…何かしようにも、その何か、が見つからいのさ。」

と僕は答える。

「どうだっていいかな…」


「人は、物を食べると味がするんですってね。」

窓辺の水槽に揺らめく金魚は、まるで夜の街の明かりの中に浮かんでいるようだった。

「さぞ面白いことなんでしょう?」

「そうかな」

金魚がそんなことを言うので、乾燥ミジンコの容器の中身を少し水面にばら撒く。

 貪欲に飛びつく金魚を眺めながら僕は、ふと言った。

「不便だよ。不味いと思うとそれが食べ物でも食べられないんだから。」

「あら」

一瞬でエサを食べ尽くした金魚はふわりとまた水中に舞う。

「つまらない人。」

僕は無視する。

 しかし、金魚は言った。

「でもあなた、その白い粒は、不味そうな顔をしながら随分たくさん飲み込むじゃない。」

言われて、僕は机の上の薬の空のゴミを集めて捨てながら答える。

「薬だよ。頭が痛いときに飲むんだ。」

「飲むと良くなるの?」

金魚は真ん丸な目で問う。

「…いや、場合によるけど。」

僕は答える。すると、

「そう。なるほど、人って不便なのね。」

と金魚は気泡を吐いた。僕は少し後ろめたくなる。

「別に、僕みたいな人間ばかりじゃないさ。」

そう言うと、金魚はふわりと水の中を揺らめいて

「金魚だって、私みたいに喋るのばかりじゃないわ」

と、面白そうに言った。


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